製品図面の公差が厳しいと金型費用はどれだけ上がる?「±0.1」の難しさ

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製品図面を確認していると、ときどき何気なく書かれている「±0.1」という寸法公差。

設計者から見れば、基準寸法の上下に0.1mmずつ余裕があるため、「そこまで厳しくないのでは?」と感じるかもしれません。

しかし、射出成形金型を製作する側から見ると、この±0.1mmがなかなかの曲者です。

図面の上では、たった小数点以下1桁の話。それでも金型屋にとっては、加工、測定、成形収縮、型温、材料ロット、成形条件など、さまざまな要素と戦わなければなりません。

しかも、この戦いの相手は目に見えないことが多いのです。0.1mmは薄いコピー用紙と同じくらいの寸法ですが、請求書の上では意外と存在感を発揮します。

この記事では、製品図面の公差が厳しくなると金型費用がどのように上がるのか、なぜ「±0.1」が難しいのかを、金型製作の現場目線で解説します。

目次

そもそも「±0.1」とは、どれくらいの範囲なのか

たとえば、製品図面に次の寸法が記載されていたとします。

50.0±0.1mm

この場合、合格となる範囲は49.9~50.1mmです。上下を合わせた公差幅は0.2mmあります。

数字だけを見ると、それほど狭くないようにも思えます。しかし、これは完成した樹脂製品に対する公差です。金型の鋼材を50.0mmに削れば、そのまま50.0mmの製品が出てくるわけではありません。

樹脂は金型内で冷えて固まるときに収縮します。さらに、その収縮量は次のような条件でも変化します。

  • 樹脂の種類やグレード
  • 材料ロットや水分量
  • 成形温度、金型温度、保圧、冷却時間
  • 製品の肉厚やリブ形状
  • ゲートの位置と大きさ
  • 寸法を測定するタイミングや環境

つまり、金型は硬い鉄を相手に作りますが、最後に寸法を決めるのは、温度や圧力で微妙に姿を変える樹脂です。

言うことを聞くようで、毎回ほんの少しだけ態度が違う。樹脂はなかなか人間味のある材料です。

「±0.1」なら、すべて難しいわけではない

ここは非常に重要です。

同じ±0.1mmでも、基準寸法や測定する方向、製品形状によって難易度は大きく変わります。

たとえば、10mmの寸法に対する±0.1mmと、300mmの寸法に対する±0.1mmでは意味がまったく違います。

指示寸法許容される変動率の目安難易度のイメージ
10.0±0.1mm約±1%形状によっては比較的対応しやすい
50.0±0.1mm約±0.2%成形条件や収縮率の影響が目立つ
300.0±0.1mm約±0.033%樹脂成形品としては非常に厳しい

また、金型の同じ入れ子内で決まる寸法と、複数の入れ子やスライドをまたいで決まる寸法でも違います。

金型の開閉方向に関係する高さ寸法、スライドの停止位置で決まる寸法、長い製品の端から端までの寸法などは、部品単体の加工精度だけでは管理できません。組み付け誤差、作動クリアランス、熱膨張、型締め時の変形まで影響するからです。

したがって、「±0.1だから高い」「±0.2なら安い」と数字だけで判断することはできません。公差がどこに付いているかが、かなり重要です。

公差が厳しいと、なぜ金型費用が上がるのか

1.金型部品の加工精度をさらに高める必要がある

製品寸法を±0.1mmに収めるためには、金型部品も±0.1mmで加工すればよい、という話ではありません。

金型部品の加工誤差、組み付け誤差、成形収縮のばらつきなどを見込む必要があるため、金型側には製品公差よりもさらに高い精度が求められます。

場合によっては、マシニング加工だけで完成させず、放電加工、ワイヤーカット、研削加工、手仕上げなどを組み合わせます。加工工程が増えれば、機械の使用時間も作業時間も増えます。

加工担当者としては、「図面に0.1と書くのは一瞬ですが、その0.1を作るのは一瞬ではありません」と、そっとお伝えしたくなるところです。

2.寸法調整用の入れ子が必要になる

成形品の寸法は、初回の試作で狙いどおりになるとは限りません。

そこで重要寸法を決める部分を入れ子構造にし、試作後に交換や追加工ができるように設計することがあります。

調整用入れ子を設ければ、寸法を追い込みやすくなる一方で、金型部品の点数、加工箇所、組み付け工数が増えます。入れ子同士の合わせ面が増えるため、バリ対策や冷却構造にも配慮が必要です。

つまり、調整できる金型は便利ですが、便利なものにはだいたい手間がかかります。収納の多い家具と同じです。引き出しが増えれば、作る部品も増えます。

3.試作と寸法調整の回数が増える

通常の金型でも、試作後には製品寸法や外観を確認します。しかし厳しい公差が多数ある場合は、測定結果をもとに金型を修正し、再び成形して確認する作業が必要になります。

代表的な流れは次のとおりです。

  1. 金型を製作する
  2. 初回成形を行う
  3. 製品を測定する
  4. 収縮傾向を確認する
  5. 金型を追加工または肉盛り修正する
  6. 再び成形・測定する

一度の修正で決まればよいのですが、複数の寸法が互いに影響していると、ひとつを合わせたら別の寸法が外れることもあります。

金型の寸法調整は、布団の四隅を順番に直しているうちに、最初に直した角がまたズレているようなものです。

試作回数が増えれば、成形機の使用料、材料費、運送費、測定費、修正工数が追加で必要になります。

4.測定方法や測定治具にも費用がかかる

厳しい公差を保証するには、正しく測定できなければなりません。

ノギスで測れる単純な寸法なら比較的容易ですが、曲面上の位置、変形しやすい薄肉部品、基準面から離れた穴位置などは、三次元測定機や専用測定治具が必要になる場合があります。

樹脂製品は測定時の押さえ方によっても寸法が変わります。「軽く押さえた状態」と「しっかり固定した状態」で測定値が異なることも珍しくありません。

このため、図面には寸法公差だけでなく、測定基準、固定方法、測定温度、成形後何時間で測るかまで決めておくのが理想です。

ゴールの場所が決まっていないのに、全力で走れと言われても困ります。測定条件は、そのゴール地点を決めるためのものです。

5.失敗できない分、見積もりにリスクが加算される

公差が厳しい金型では、追加修正や部品の再製作が発生する可能性が高くなります。

特に、寸法が大きく外れた場合、金型を削る方向の修正なら対応しやすくても、削りすぎた部分を元へ戻す修正は簡単ではありません。肉盛り溶接、部品の再製作、入れ子化などが必要になります。

そのため金型メーカーは、あらかじめ調整工数や再加工のリスクを見積もりに含めます。これは単なる「精密加工代」ではなく、寸法保証まで含めた費用と考えたほうがよいでしょう。

公差が厳しいと、金型費用はどれだけ上がる?

結論からいうと、「±0.1なら一律で何%上がる」という基準はありません。

製品サイズ、材質、形状、公差の数、測定方向、金型構造、保証条件によって差が大きいためです。

それでも一般的なイメージを示すなら、次のように考えられます。

公差の状況金型費用への影響の目安
小さな製品の一部に±0.1が1~2カ所数%~15%程度増える場合がある
重要寸法が複数あり、入れ子や追加測定が必要10~30%程度増える場合がある
大型製品、長いピッチ、スライドをまたぐ寸法に±0.120~50%以上増える場合もある
多数の厳しい公差を量産時まで保証金型構造から見直しとなり、単純比較できないこともある

これはあくまで概算の考え方です。実際には、金型本体の価格よりも、試作・測定・修正費を別項目として見積もる場合もあります。

また、技術的に成立しにくい公差については、金型費用を上げれば必ず保証できるわけではありません。金型は高くすれば魔法の箱になる、というものではないのです。

特にガラス繊維入り樹脂、大型成形品、肉厚差の大きな形状、反りやすい形状では、金型精度だけで製品寸法を安定させるのが難しい場合があります。成形機、材料管理、成形条件まで含めた検討が必要です。

±0.1が難しくなりやすい代表的な寸法

次のような場所に±0.1mmが付いている場合は、早い段階で金型メーカーへ相談することをおすすめします。

  • 製品の端から端までの長い寸法
  • 複数のスライドをまたぐ穴やボスの位置
  • 金型の固定側と可動側の両方で決まる寸法
  • 薄肉で変形しやすい部分の高さや幅
  • 肉厚差が大きく、ヒケや反りが発生しやすい部分
  • 互いに関連する寸法が連続して公差指定されている箇所
  • 測定基準や測定方法が明確でない寸法

反対に、小さな入れ子の中だけで完結する寸法や、金型加工によって直接決めやすい寸法は、比較的管理しやすい場合があります。

金型費用を抑えるために、製品設計段階でできること

本当に必要な寸法だけ厳しくする

最も効果的なのは、すべての寸法に厳しい公差を付けないことです。

相手部品との嵌合、シール性、作動性などに関係する重要寸法は厳しく管理し、それ以外は一般公差や参考寸法にすることで、金型費用と製作リスクを抑えられます。

図面全体に±0.1を付けると、一見すると高品質な製品になりそうですが、実際には測定と管理項目が増え、意味のないコストが発生する可能性があります。

公差は、厳しければ厳しいほど偉いわけではありません。必要なところだけ厳しくするのが、いちばん賢い指定です。

基準寸法と参考寸法を整理する

寸法が連鎖している図面では、それぞれの公差が積み重なり、どの寸法を優先すべきか分からなくなることがあります。

機能上重要な基準を明確にし、そこから必要な寸法を指示します。管理しなくてもよい寸法は、括弧寸法などの参考値にすると、製作側も狙いを理解しやすくなります。

公差を±0.2や±0.3へ緩和できないか検討する

±0.1を±0.2へ変更すると、数字としては0.1mmしか変わりません。しかし、金型製作や成形の現場では、その0.1mmが大きな余裕になります。

寸法調整の回数が減り、複雑な入れ子構造を避けられる場合もあります。機能上問題がなければ、公差緩和は金型費用を下げる有効な方法です。

金型を発注する前に打ち合わせる

図面が完成し、すべての公差が確定してから相談するのではなく、設計途中で金型メーカーに確認するのが理想です。

「この寸法は±0.1で成形できるか」だけでなく、次のような情報も共有すると判断しやすくなります。

  • その寸法が必要な理由
  • 相手部品との関係
  • 量産時に全数保証が必要か
  • 測定方法と測定基準
  • 公差を外れた場合に製品機能へ影響するか

理由が分かれば、金型構造の工夫だけでなく、形状変更、公差の振り分け、測定方法の変更など、別の解決策を提案できることがあります。

厳しい公差は「金型精度」だけの問題ではない

射出成形品の寸法は、金型の加工精度だけで決まるものではありません。

高精度な金型を作っても、材料の乾燥状態、樹脂温度、金型温度、保圧、冷却時間が変われば、製品寸法も変化します。また、成形直後と24時間後で寸法が変わることもあります。

そのため厳しい公差を安定して維持するには、次の3つをセットで考える必要があります。

  1. 寸法調整しやすい金型構造
  2. 安定した材料・成形条件
  3. 統一された測定方法

このうち、どれかひとつだけ完璧でも十分ではありません。

金型屋がどれだけ頑張っても、量産時の条件が毎回大きく変われば寸法は安定しません。逆に、成形条件だけで無理に合わせようとすると、ヒケ、バリ、ショートなど別の不良が発生することがあります。

製品寸法は、金型・成形・測定のチーム戦です。誰か一人にすべてを背負わせると、だいたいどこかで無理が出ます。

まとめ|「±0.1」は数字以上に重い

製品図面の±0.1mmは、寸法の場所や製品サイズによっては十分に対応可能です。しかし、大型製品や長いピッチ、スライドをまたぐ寸法、変形しやすい形状では、難易度が一気に高くなります。

公差が厳しくなると、金型部品の高精度加工、調整用入れ子、試作回数、測定作業、修正リスクが増えるため、金型費用が数%~数十%上がることがあります。条件によっては、それ以上になることもあります。

ただし、費用を上げれば必ず寸法を保証できるわけではありません。樹脂成形品では、金型だけでなく材料、成形条件、測定方法まで含めた管理が必要です。

金型費用を抑えながら安定した製品を作るためには、機能上本当に必要な寸法を見極め、重要でない公差は緩和すること。そして、製品設計の早い段階で金型メーカーと相談することが大切です。

図面に「±0.1」と書くのは数秒ですが、その0.1mmを量産で守り続けるためには、想像以上の技術と手間が必要です。

公差を決めるときは、小数点の右側だけでなく、その向こう側にいる金型屋の顔も少しだけ思い出していただけると幸いです。

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