「この金型、どのくらいでできますか?」
金型の見積もりで、金額と並んで気になるのが納期です。製品の発売日や量産開始日が決まっていれば、なおさらですよね。
私たち金型をつくる側も、できるだけ早くお渡ししたいところです。ただ、金型は材料を機械に入れて、翌朝には完成品が出てくるものではありません。そんな機械があったら、まず弊社がカタログを取り寄せます。
設計をして、材料を手配し、加工して、組み立てる。さらに実際に樹脂を流して確認し、必要な修正を行う。金型製作には、いくつもの工程があります。
今回は、射出成形金型の納期の考え方と、設計から試作・修正・納品までの流れを、金型メーカーの立場からお話しします。
金型製作の納期は、数週間から数か月。まず「どこまでの納期か」を確認
金型製作にかかる期間は、仕様によって数週間から数か月と幅があります。比較的単純な型と、多数個取りで複雑なスライド機構を持つ型では、必要な作業量が大きく違うためです。公開されている製造サービスの解説でも、型の種類や複雑さによって製作期間に大きな幅が示されています。参考:Freeform Polymersの金型製作期間の解説
ただし、「金型の納期は2か月です」と聞いたときには、もう一歩踏み込んで確認したいことがあります。
その2か月は、初めて試作するまででしょうか。それとも、修正を終えて納品するまででしょうか。
ここが違うと、量産までの予定も変わります。
| 日程の区切り | その時点でできること |
|---|---|
| 金型の組立完了 | 金型として組み上がり、試作に向けた準備ができる |
| 初回トライ | 実際に成形し、最初の成形サンプルを確認できる |
| 修正・再トライ完了 | 指摘箇所を修正し、結果を確認できる |
| 金型納品 | 合意した状態の金型を、指定先へ引き渡す |
| 量産開始 | 生産先で必要な確認・承認を終え、量産に入る |
金型の納品と量産開始も、必ずしも同じ日ではありません。納品後に生産先の成形機で条件を確認したり、製品の承認を得たりする期間が必要な場合があります。
また、製作期間を「発注日から数える」のか、「製品図面や仕様が確定してから数える」のかも大切です。図面が未確定のままでは、発注済みでも進められない工程があります。
カレンダー上では同じ「2か月」でも、スタートとゴールが違えば、まったく別の予定になります。
① 仕様確認・打ち合わせ|最初の確認が、後半の手戻りを減らす
最初に行うのは、製品図面や3Dデータをもとにした仕様確認です。
使用する樹脂、製品寸法と公差、取り数、外観の要求、使用する成形機などを確認しながら、金型として成立する構造を検討します。
たとえば、抜き勾配が不足していれば、製品が金型に張り付いたり、取り出す際に傷や変形が発生したりする可能性があります。横穴や爪の形状によっては、スライドなどの機構も必要です。
この段階で「ここは少し形状を変えられますか」「この寸法は、どの機能に必要ですか」と確認するのには理由があります。
図面上で変更できるうちに問題を整理した方が、鋼材を加工してから直すより、時間も費用も抑えやすいからです。
画面の中なら数回の操作で変えられても、鉄になってからは同じようにはいきません。金型には、便利な「元に戻す」ボタンが付いていないのです。
もちろん、何でも緩くすればよいわけではありません。必要な精度や機能を守りながら、つくりやすさとのバランスを探ることが、この打ち合わせの役割です。
② 金型設計|製品の形だけをつくればよいわけではない
仕様がまとまったら、金型設計を進めます。
金型は、製品と同じ形の空間を掘れば完成、というものではありません。
樹脂をどこから入れるか。空気をどこへ逃がすか。どう冷やし、どう型を開き、どこを押して製品を取り出すか。こうしたことを、一つの金型の中で成立させる必要があります。
ゲート、冷却穴、エジェクタピン、スライド機構などは、それぞれ好きな場所に置けるわけではありません。冷却穴を通したい場所にピンがあり、その先には締結ボルトがある、ということもあります。
金型の中は、見た目以上に場所取りが厳しいのです。
さらに、樹脂の収縮や加工方法、組み立てやすさ、将来のメンテナンスも考えます。設計を急ぎすぎて後から干渉や加工上の問題が見つかれば、かえって納期が延びかねません。
早く完成させるためにも、ここで詰めるべきことは詰めておく必要があります。
③ 材料・部品の手配と機械加工|機械の運転時間以外も必要
設計の進行に合わせて、鋼材、モールドベース、各種部品を手配します。確定した部分から先行して手配することもありますが、変更の可能性がある部分は慎重に判断します。
特殊な鋼材や規格外の部品を使う場合は、調達期間が工程全体に影響することもあります。
材料がそろえば、マシニング加工、放電加工、ワイヤーカット、研削加工などを組み合わせ、必要な部品を製作していきます。
「機械で加工するなら、ずっと動かせば早くできますよね?」
確かに、連続運転や工程の並行化は納期短縮に役立ちます。ただし、すべての加工を一度に進められるわけではありません。
放電加工には、その形状を加工するための電極製作が先に必要になる場合があります。焼入れを行う部品であれば、熱処理を挟み、その後に精度を仕上げる工程もあります。
加えて、加工プログラムの作成、段取り、工具交換、途中の測定も必要です。
機械は働き者ですが、「急ぎ」の付箋を貼ると加工速度が2倍になる機能は、残念ながらありません。
細い工具で加工する深い形状や、高い精度が必要な部分ほど、無理に速度を上げると工具の破損や精度不良につながります。速さだけでなく、確実に次の工程へ渡せることが大切です。
④ 仕上げ・組立調整|部品がそろってからも仕事がある
加工した部品を磨き、組み込み、金型全体の動きや合わせを確認します。
PL面の当たり、スライドの動き、エジェクタの作動、冷却回路の漏れなど、確認する項目はさまざまです。
一つひとつの部品が寸法どおりでも、組み合わせた状態で問題なく動くとは限りません。部品同士の関係や、可動部のクリアランスを見ながら調整します。
隙間が大きすぎればバリの原因になりますし、詰めすぎれば動作不良やかじりにつながることもあります。
「部品が全部できた日」と「試作できる日」の間には、こうした仕上げと調整があります。
外から見ると完成したように見えても、つくる側はまだ確認中。この時間も、金型をきちんと働かせるための工程です。
⑤ 初回トライ|実際に成形して初めて見えること
組立調整が終わったら、金型を成形機に取り付け、実際の樹脂で試し打ちを行います。これが「トライ」です。初回をT0またはT1と呼ぶ場合がありますが、呼び方や区切り方は会社によって異なります。
ここでいう試作は、製作した金型を使って成形サンプルをつくることです。金型製作前に行う3Dプリンターや切削による試作とは、確認できる内容が違います。
トライでは、樹脂が充填されるか、バリやヒケがないか、反りや白化が出ないか、製品を無理なく取り出せるかなどを確認します。サンプルの寸法や、相手部品との組み付け確認も必要です。
実際の成形品には、樹脂の収縮や流れ方、冷却、成形条件などが影響します。そのため、金型の加工寸法を測るだけで、製品の仕上がりをすべて判断することはできません。
もちろん、初回から狙いどおりの製品を目指して製作します。ただ、初回トライで製品が出たことと、量産に向けた確認がすべて終わったことは別です。 サンプル承認後に生産へ進む流れは、製造サービスでも明示されています。参考:Xometryの射出成形サービス
なお、トライを金型メーカー側で行うか、お客様側の成形工場で行うかは、案件によって異なります。金型の輸送、成形機の確保、樹脂の準備、立ち会いの日程も含めて調整が必要です。
⑥ 修正・再トライ|「少し直す」の中身で期間が変わる
試作で課題が見つかったら、原因を整理して対応します。
成形条件で調整できるのか。金型の修正が必要なのか。製品形状の見直しまで必要なのか。ここを切り分けずに、いきなり金型を削るのは避けたいところです。
たとえば、離型時の白化でも、突き出すタイミングや冷却時間、抜き勾配、表面状態、製品形状など、確認すべき点は複数あります。
修正の内容によっても、日程は変わります。
| 修正内容の例 | 日程を考える際のポイント |
|---|---|
| 局部的な磨きや当たり調整 | 作業範囲に加え、分解・再組立の時間を確認する |
| 寸法変更や追加加工 | 加工できる方向か、周辺形状に影響しないかを確認する |
| 肉盛りを伴う修正 | 鋼材や処理状態への適否、再加工・仕上げの工程を確認する |
| 入れ子・スライドなどの再製作 | 材料手配から加工・処理・組み込みまで見込む |
製品図面で見ると、変更量はわずか0.1mm。それでも、金型側では大きな作業になることがあります。
「たった0.1mm」と「簡単な修正」は、残念ながら同義語ではありません。数字は小さくても、工程表では存在感を発揮します。
また、修正作業が終われば、その場で合格が決まるわけでもありません。再トライ、測定、お客様の評価という確認の時間が必要です。
修正項目はできるだけ整理し、図面の版と合わせて共有すると、認識違いや二度手間を減らせます。
⑦ 最終確認・納品|量産開始までの役割分担も決めておく
必要な修正と確認を終え、合意した基準を満たしたら、納品に向けて準備を進めます。
金型の状態を確認し、必要な清掃や防錆を行い、指定の納品先へ引き渡します。図面、部品情報、試作条件、測定結果など、引き渡す資料の範囲も事前に決めておくとスムーズです。
シボ加工などの表面処理については、形状・寸法の確認後に実施する段取りもあります。その場合は、処理期間や処理後の確認も工程に含めます。
生産先の成形機で改めて確認する場合は、誰が条件を設定し、誰が製品を評価し、どの状態で量産開始とするのかを共有しておくことも大切です。
納品日を守ることはもちろん重要ですが、その後に「さて、誰が確認するんでしたっけ」とならないようにしておきたいですね。
納品まで10週間としたら? 工程表の一例
全体の流れがつかみやすいよう、仕様確定後から納品まで10週間を見込む場合の例を示します。
これは工程の組み方を説明する仮の例であり、弊社の標準納期や、すべての金型に当てはまる日程ではありません。
| 時期 | 主な工程 |
|---|---|
| 1〜2週目 | 金型設計・設計確認、確定部分から材料と部品を手配 |
| 2〜6週目 | 材料入荷、部品加工、必要な熱処理など |
| 6〜7週目 | 仕上げ、組立、動作・漏れ確認 |
| 8週目 | 初回トライ、測定、評価、修正内容の整理 |
| 9週目 | 金型修正、再組立 |
| 10週目 | 再トライ、最終評価・承認、納品準備・納品 |
この例では、工程を一部並行して進め、修正と再評価が予定内に収まることを想定しています。初回評価に時間がかかる場合や、部品の再製作、追加の表面処理が必要な場合は、さらに期間が必要です。
つまり、8週目に最初のサンプルができても、8週目から量産できるとは限りません。量産開始日から逆算するときには、この後半部分を忘れないようにしたいところです。
納期を縮めたいときに、先にそろえておきたい情報
急ぎの案件では、機械加工の時間を削ることに目が向きがちです。しかし、確認待ちや手戻りを減らすことも、納期短縮につながります。
見積もりや製作の相談時には、次の情報があると検討を進めやすくなります。
- 最新の製品図面・3Dデータと、未確定の箇所
- 使用樹脂のグレード、取り数、使用する成形機
- 重要寸法、外観基準、組み付け相手の情報
- サンプルが必要な日、金型納品希望日、量産開始予定日
- トライの実施先と、評価・承認に必要な期間
特に、希望日は「なるべく早く」だけでなく、「この日に組立評価をしたいので、この日までにサンプルが必要」と伝えていただけると、工程を検討しやすくなります。
また、途中の設計変更は、変更量だけでなくタイミングも重要です。これから加工する部分なのか、すでに焼入れや仕上げまで終わった部分なのかで、対応は変わります。
変更が必要になったら、確定を待ってまとめて連絡するより、まず変更の可能性を共有していただく方が、無駄な加工を避けられる場合があります。
早くつくるために、最初から納品後まで見通す
金型の納期を考えるときは、「加工に何日かかるか」だけでなく、設計、調達、組立、試作、評価、修正まで含めて見ておくことが大切です。
特に確認しておきたいのは、いつから日数を数え、どの状態を完成とするのか。そして、初回サンプルの確認後に、どれだけ評価・修正の時間を確保するかです。
私たち金型メーカーとしても、早く完成させたい気持ちは同じです。ただ、必要な確認を飛ばして納品し、量産直前に金型が戻ってくるのは、できれば避けたいところ。金型に往復旅行を楽しんでもらっても、生産は進みません。
名岐金型へ金型製作をご相談いただく際は、製品図面や仕様とあわせて、サンプルの必要日や量産開始予定もお知らせください。
「いつまでに、何を、どの状態で必要としているか」を共有しながら、無理のない工程と、短縮できる部分を一緒に考えていきましょう。

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