金型を加工していると、「ここを、もう少し違う角度から削れたらなあ」と思う場面があります。
上からでは工具が届きにくい。横から加工するためには、いったん材料を外して固定し直さなければならない。斜めの穴を加工するには、その角度に合わせた段取りが必要になる。
削ること自体よりも、「削れる状態にするまで」が大変だったりするんですよね。
そこで力を発揮するのが、5軸加工機です。弊社・名岐金型でも、DMG MORIのDMU50を金型製作に活用しています。
ただ、「5軸」という言葉だけ聞くと、何となくすごそうだけれど、何がどう良いのかは分かりにくいかもしれません。
今回は、金型を作る側の視点から、5軸加工機のメリットと、使ううえで押さえておきたいポイントをご紹介します。
そもそも5軸加工機とは?
一般的な3軸マシニングセンタは、X・Y・Zの3方向に工具と加工物の相対位置を動かして加工します。ざっくり言えば、左右・前後・上下です。
5軸加工機は、これに2つの回転軸を加えたもの。機械の構造によってテーブルや主軸側が回転・傾斜し、加工物に対して工具を当てる向きを変えられます。
つまり、単に「動ける方向が2つ増えた」というより、加工しやすい角度から工具を近づけられるようになるのが大きな特徴です。
人間も、机に置いた物の裏側を見たいときは、物を持ち上げて向きを変えますよね。自分の首だけで何とかしようとすると、だいたい先に首が限界を迎えます。
加工でも同じように、工具を無理に届かせるより、加工する側の向きを変えたほうが都合の良い場面があるわけです。
「割り出し加工」と「同時5軸加工」は違う
ここは少し専門的ですが、5軸加工を知るうえで大切なポイントです。
5軸加工機を使うからといって、いつも5つの軸を同時に動かしながら削るわけではありません。
割り出し加工:角度を決めてから削る
回転軸で加工物や工具の向きを合わせ、その姿勢を固定して、主に3つの直線軸で加工する方法です。「3+2軸加工」とも呼ばれます。
例えば、入れ子の上面を加工した後、テーブルの向きを変えて側面を加工する。あるいは、斜めの穴の軸方向に工具を合わせて穴加工をする、といった使い方です。
派手な動きは少なくても、金型部品の多面加工では、この割り出し加工が役立ちます。
同時5軸加工:姿勢を変えながら削る
直線軸と回転軸を連動させ、加工中も工具と加工物の相対的な姿勢を変える方法です。
曲面に沿って工具の向きを調整したり、周囲への干渉を避けながら加工したりする際に活用できます。
こちらは、いかにも「5軸加工をしています」という動きになります。ただ、動きが複雑であれば、そのぶん良い加工になるわけではありません。必要な形状に、必要な方法を選ぶことが大切です。
メリット① 段取り替えを減らせる
5軸加工機の大きなメリットが、材料や部品を固定し直す回数を減らせることです。
例えば、上面と側面、さらに斜め方向に加工が必要な入れ子を考えてみます。
3軸加工機でも、向きを変えて固定したり、角度を付ける治具を使ったりすれば加工できます。ただし、そのたびに取り外し、清掃、固定、位置や傾きの確認といった作業が必要です。
「向きを変えるだけ」と言われると簡単そうですが、金型部品は机の上のリモコンではありません。ひょいっと置き直して、そのまま続きが削れるわけではないんです。
5軸加工機なら、機械側で向きを変えられるため、固定したまま複数の面を加工できる場合があります。これにより、段取り作業だけでなく、次の段取りを待つ時間や、繰り返し位置を確認する手間も減らせます。
ただし、つかんでいる面や底面まで、何でも一度に加工できるわけではありません。工具の届く範囲、治具との干渉、部品の大きさによっては、付け直しが必要です。
**「必ず一回で全部完成」ではなく、「まとめられる工程をまとめられる」**と考えると、実際の使い方に近いと思います。
メリット② 付け直しによる誤差の要因を減らせる
段取りが減ると、時間だけでなく精度の面にもメリットがあります。
加工物を付け直す際には、基準位置の取り直しや、固定面の状態、締め付け方などに注意が必要です。わずかな切りくずの挟み込みや、固定姿勢の違いが、加工結果に影響することもあります。
もちろん、3軸加工でも適切な治具と測定によって高精度に加工できます。ただ、付け直しが増えれば、確認すべき場面も増えていきます。
同じ固定状態で複数の面を加工できれば、その付け直しに伴う誤差の要因を減らせます。例えば、入れ子の形状と側面の穴位置、複数の傾斜面の位置関係などをそろえるうえで、有利になる可能性があります。
金型では、一か所の寸法が合っているだけでは足りません。「こちらの面を基準にしたとき、向こうの穴がどこにあるか」といった、形状同士の関係も大切です。
図面の中では仲良くそろっている寸法が、実物では少しずつ別行動をしている。そんなことにならないよう、工程の組み方から考えていきます。
メリット③ 工具を短く使いやすくなる
もう一つ、金型加工で見逃せないのが、工具の突き出し長さです。
深い部分や壁際を加工するとき、上から工具を入れる方法では、ホルダが周囲に当たらないように工具を長く出す必要がある場合があります。
ところが、同じ径の工具でも、突き出しが長くなるほどたわみや振動の影響を受けやすくなります。寸法のずれや、加工面のびびり模様につながることもあり、切削条件を控えめにしなければならない場合があります。
「あと少し届けばいいのに」と工具を伸ばした結果、届くけれど安定して削れない。加工の世界では、なかなか悩ましいところです。
5軸加工機では、加工物や工具の姿勢を変えることで周囲との干渉を避け、短い突き出しで加工できる場合があります。
その結果、工具のたわみやびびりを抑えやすくなり、寸法や面品位の安定につながる可能性があります。
もちろん、細くて深い溝など、傾けても加工空間が確保できない形状もあります。5軸になったからといって、工具が壁をすり抜けられるようになるわけではありません。
メリット④ 傾斜面や曲面を加工しやすくなる
金型部品には、傾斜面や曲面、角度の付いた穴など、工具の向きを工夫したい形状が数多くあります。
5軸加工では、こうした形状に合わせて加工姿勢を選べます。
例えば、ボールエンドミルは先端が球状になった工具ですが、回転中心に当たる先端付近では切削速度が低くなります。形状や工具に応じて姿勢を調整し、その部分での切削を避けられれば、面品位の改善につながる場合があります。
ただし、「傾ける角度は大きいほど良い」というものではありません。工具の接触位置、加工経路、切削条件を組み合わせて考える必要があります。
加工面が整えば、後工程の磨き負担を減らせる可能性もありますが、必要な仕上げは製品の外観要求や金型の仕様によって変わります。
5軸で加工しただけで、どの面もそのまま鏡面になる……というところまでは、さすがに話がうますぎますね。
5軸加工機なら、必ず高精度になる?
ここまでメリットをご紹介しましたが、「5軸加工機で加工すれば、自動的に精度が上がる」とは言い切れません。
回転軸が増えるぶん、回転中心の校正や角度の誤差、機械の熱変位など、気を配る要素もあります。回転軸のわずかな角度誤差でも、回転中心から加工点までの距離によって、位置への影響は変わります。
さらに、工具の摩耗や振れ、ワークの固定剛性、測定方法も重要です。
5軸加工は、高精度を実現するための選択肢を増やしてくれる設備。その選択肢をどう使うかで、結果が変わります。
良い包丁を買えば料理の幅は広がりますが、それだけで夕飯が完成するわけではない。機械も、そこは意外と似ています。
また、金型部品の加工精度と、成形品の寸法精度は同じ話ではありません。成形品には樹脂の収縮、肉厚、冷却、成形条件なども影響します。金型を高精度に加工することは大切ですが、それだけで製品の公差がすべて解決するわけではないのです。
プログラムと干渉確認も大切
5軸加工は自由度が高い一方で、工具やホルダ、加工物、治具、機械本体が近づく組み合わせも増えます。
刃先だけを見ると問題がなくても、ホルダが壁に当たる。加工中は大丈夫でも、次の角度へ移動するときに治具へ近づく。こうした点まで確認する必要があります。
そのため、CAMによる加工経路の作成に加え、実際に使う工具・ホルダ・治具を反映したシミュレーションや、機械に合ったNCプログラムの出力が重要になります。
「工具の先は通れるから大丈夫」は、車でいえば「バンパーの真ん中は通れるから、この路地に入れるはず」と言っているようなもの。横幅も、曲がるときの動きも見なければいけません。
段取り時間を減らせる一方で、こうした準備に時間をかける場合もあります。加工中の速さだけでなく、プログラム作成から検査までを含めて、工程全体で判断します。
3軸加工機との使い分けで、メリットを生かす
では、すべての金型部品を5軸加工機で加工すればよいのでしょうか。
実際には、上面から無理なく加工できる形状や、姿勢を変える必要のない加工では、3軸加工機が合理的な場合もあります。加工物の大きさや重量、切削負荷などによっても、適した機械は変わります。
反対に、複数方向からの加工が多い部品や、傾斜面・斜め穴のある部品、姿勢を変えることで工具を短くできる形状では、5軸加工のメリットを生かしやすくなります。
また、工具が入らない細部や、切削では残る内角などは、放電加工などの別工程が必要になることもあります。5軸加工機は頼もしい設備ですが、金型工場の全員分の仕事を一台で引き受けるわけではありません。
金型を作るうえで大切なのは、5軸加工機を使うこと自体を目的にせず、形状と要求精度に合った方法を選ぶことです。
段取りを減らし、無理なく削れる方法を増やす
5軸加工機の魅力は、複雑な動きをすること以上に、加工の進め方を変えられる点にあります。
付け直しを減らせれば、作業時間と誤差の要因を減らせる。工具を短く使えれば、安定した切削につながる。加工姿勢を選べれば、これまで無理をしていた部分に、別の方法を使えるようになる。
こうした一つひとつの工夫が、金型部品の品質や、製作工程の効率につながっていきます。
弊社でも、DMU50をはじめとする設備の特性を踏まえ、金型の形状や必要な精度に応じた加工方法を考えています。
「この形状、どうやって削ろうか」と悩む時間は、5軸加工機があってもなくなりません。むしろ、選択肢が増えたぶん、考えることが増える場合もあります。
それでも、無理な加工を少し減らして、より安定して作れる方法を選べる。その積み重ねこそが、金型製作に5軸加工機を活用する価値だと考えています。

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