「図面では平らなのに、成形したら端が浮いている」
「金型から出した直後はよさそうだったのに、しばらく置いたら曲がってきた」
「反りを直そうと条件を変えたら、今度はヒケが出てきた」
射出成形に携わっていると、こうした場面に頭を抱えることがあります。こちらとしては、ただ平らな部品を作りたいだけ。芸術的な曲線美までは注文していません。
この厄介な「反り」は、冷却時間や保圧だけで決まるものではありません。製品の肉厚、樹脂の性質、ゲート位置、金型の冷却構造、さらには取り出し方まで関係します。
今回は、成形品が反る仕組みと、成形条件で改善できること、金型側から見直したいことを、順番に見ていきましょう。
そもそも、成形品はなぜ反るのか?
まず押さえておきたいのが、樹脂は冷えて固まる過程で収縮するということです。
製品全体が同じ割合で、各方向に均一に縮めば、主に寸法が小さくなります。ところが実際には、場所や方向によって縮み方に差が生じます。
表と裏で冷え方が違う。右側と左側で肉厚が違う。樹脂が流れる方向と、それに直角の方向で収縮しやすさが違う。
こうした差が製品内部の応力につながり、曲がりやねじれとして現れるのが、反りの基本的な仕組みです。
イメージとしては、製品の各部分が「私はこれだけ縮みます」と、それぞれ別の予定を立てている状態です。ひとつの部品なのに、スケジュール調整ができていないわけですね。
そのため、反り対策では「どうすれば縮まなくなるか」だけでなく、どこで、どのような縮み方の差が生まれているかを見る必要があります。
なお、冷却・収縮による反りに、突き出しや取り出し時の力による変形が重なっている場合もあります。最初から原因をひとつに決めないことが大切です。
原因① 肉厚の違いで、冷え方と縮み方がそろわない
厚い部分は、内部に熱が残りやすい
同じ材料・冷却条件なら、厚肉部は薄肉部より内部まで冷えるのに時間がかかります。
その結果、製品の中に「すでに固まっている部分」と「まだ内部に熱を持っている部分」ができ、収縮の進み方に差が生まれます。結晶性樹脂では、冷却速度の違いが結晶化の程度にも影響し、収縮差につながります。
特に見ておきたいのは、ボスの根元やリブの交差部です。
表から見ると平らな板でも、裏側にボスやリブが集まっていると、その周辺だけ樹脂の量が多くなります。「板厚は同じです」と思っていても、断面を見ると、そこだけなかなかの厚着だったりします。
補強したリブが、反りの原因になることも
「曲がるなら、リブを太くして補強しよう」
これは自然な発想ですし、適切なリブは剛性の向上に役立ちます。ただし、太くしすぎると局所的な厚肉部を作り、冷却や収縮の不均一を増やす可能性があります。
強くするために足したリブが、別の方向から反りを手伝ってしまう。頼れる助っ人のはずが、ちょっと張り切りすぎです。
対策では、厚肉部の肉抜き、リブの厚みや配置、ボスとの接続形状を確認します。急激な肉厚変化を減らし、必要な剛性を確保しながら樹脂の偏りを小さくする考え方が基本です。
**「厚くすれば安心」ではなく、「どこに、どれだけ肉を持たせるか」まで考える。**ここが製品設計の腕の見せどころです。
原因② 冷却の偏りで、製品の表裏に収縮差ができる
肉厚がそろっていても、金型の冷却が偏っていれば反りは発生します。
例えば、製品の片面はよく冷えているのに、反対側は熱が抜けにくい場合。金型内での固まり方に差ができるだけでなく、離型後に室温まで冷える過程でも、追加の変形が生じることがあります。
温調機の設定温度が同じでも、金型表面は同じ温度とは限らない
固定側も可動側も同じ温度に設定している。だから冷却バランスも同じ……とは限りません。
冷却穴と製品面との距離、コアの形状、水量などによって、実際の熱の逃げ方は変わります。大切なのは設定画面の数字だけでなく、成形中の金型各部がどう冷えているかです。
確認したいのは、例えば次のような点です。
- 深いコアや細いコアの先端に、熱がこもっていないか
- スライドや入れ子の周辺に、冷却しにくい場所がないか
- 回路ごとの流量が確保され、詰まりや汚れがないか
- 固定側・可動側や製品の左右で、温度の偏りがないか
温調機は真面目に設定どおり働いているのに、肝心の場所へ熱を逃がす道がない。これでは、エアコンをつけた部屋で一人だけ布団をかぶっているようなものです。
冷却孔の配置、水量、温度の見直しは、樹脂メーカーの反り対策でも挙げられています。
とにかく冷やせばよい、という話でもない
冷却不足であれば、冷却時間を延ばすことで改善が期待できます。ただし、冷却の偏りや樹脂の配向が主因なら、時間を延ばすだけでは十分に直らないこともあります。
また、固定側と可動側の温度設定に差をつけて調整する場合もありますが、目標はあくまで製品に合った冷却・収縮のバランスです。「同じ設定温度なら正解」「低い温度ほど正解」とは言い切れません。
反った方向だけを見て「必ずこちら側が熱い」と決めつけず、温度測定や条件比較で確かめましょう。
原因③ ゲート位置によって、樹脂の流れと保圧の効き方が変わる
ゲートは、樹脂が製品部分へ入る入口です。
ただ、反りを考えるうえでは、入口以上の役割があります。ゲートの位置や形状によって、樹脂がどちらへ流れ、どこが先に充填され、どこまで保圧が届きやすいかが変わるためです。
製品の中では、場所によって圧力が違う
保圧は、充填後の収縮を補うために樹脂へ圧力をかける工程です。
ところが、成形機で同じ圧力を設定していても、製品全体へ同じ圧力が伝わるわけではありません。流動経路や固化の進み方によって、一般にゲート近くと流動末端では保圧の効き方に差が生じます。
その差が収縮量の違いとなり、反りにつながる場合があります。
つまり、「成形機の画面では十分な保圧」でも、「製品の奥では足りない」ということが起こり得ます。入口で大声を出しても、会議室の一番奥まで同じ音量では届かないようなものです。
ゲートは「真ん中に置けば解決」でもない
中央から入れることで充填バランスが改善する形状もあれば、端から幅広く流した方がよい形状もあります。
ゲート位置を変えると、繊維配向やウェルドライン、必要な圧力も変わります。ある部分の反りが減っても、別の重要寸法に影響する可能性があるため、外観や強度も含めて判断が必要です。
ゲートを増やす場合も同じです。入口が増えれば、それだけ流れの合流も増えます。入口の数だけで解決するなら、金型設計はもう少し気楽なお仕事だったかもしれません。
原因④ 材料の性質と、ガラス繊維の配向が影響する
同じ形状でも、材料が変われば反り方が変わることがあります。
例えば、PP・POM・PA・PBTなどの結晶性樹脂では、冷却時の結晶化も収縮に関係します。非晶性樹脂であっても、冷却や圧力の偏りがあれば反りは起こるため、「この樹脂なら絶対に反らない」とは言えません。
特に注意したいのが、ガラス繊維入りの材料です。
ガラス繊維は剛性を高め、収縮を抑えるのに役立ちますが、繊維の並び方によって方向ごとの縮みやすさに差が生まれます。この性質を「異方性」と呼びます。
**収縮率が小さいことと、反りが小さいことは、必ずしも同じではありません。**方向による収縮差が大きければ、曲がりやねじれにつながります。
「ガラス繊維入りだから、頑丈で寸法も安心」と思ったら、頑丈なまま反っていた。これがまた、なかなか手ごわいところです。
材料選定では、樹脂の名前だけでなく、使用グレードの流動方向・直角方向の収縮特性まで確認します。変更する場合も、強度や耐熱性など、もともと求められていた性能を忘れないようにしましょう。
原因⑤ 金型の構造と、製品の取り出し方に無理がある
反りを考えるときは、製品を形作る面だけでなく、その周辺の金型構造も見ておきたいところです。
入れ子やスライドは、熱の逃げ方まで考える
細いコアや複雑なスライドでは、冷却回路を配置できる場所が限られます。
「ここに水穴を通したいけれど、その先にはボルトがある。その横にはピンもある」
金型の中は、見た目以上に混雑しています。空いている土地に自由に道路を引けるわけではありません。
そのため、反り対策で冷却を見直すときは、回路配置だけでなく、入れ子の分割や材質、局所冷却の方法まで検討する場合があります。冷却回路や入れ子の変更は、冷却差による反りへの対策候補です。
突き出しの瞬間に、曲げている場合もある
十分な剛性が出ていない状態で取り出したり、離型抵抗が強い部分を偏った力で押したりすると、製品を変形させる可能性があります。
確認したいのは、突き出しピンの配置や受ける面積、突き出し速度、抜き勾配、離型面の状態です。抜き勾配不足や金型の傷、過充填は、離型不良の原因にもなります。
せっかく形になった製品を、最後の「はい、出てください!」で曲げてしまってはもったいないですよね。
取出機のつかみ方や、取り出した後の置き方も確認対象です。反りがいつ現れるのかを観察すると、冷却・収縮による変形と、外からの力による変形を切り分ける手がかりになります。
成形条件で改善するときは、何から確認する?
原因が複数あるからといって、いきなり金型を大改造する必要はありません。まずは現在の状態を記録し、何を変えると反りがどう動くかを確かめます。
冷却時間と、実際の冷却状態
冷却時間を延ばして改善するなら、取り出し時の温度や剛性不足が関係している可能性があります。ただし、それだけで原因が確定するわけではありません。
量産ではサイクルタイムとの両立も必要です。長時間冷やせば合格する状態なら、必要な箇所を効率よく冷やす余地がないか、金型側も確認したくなります。
製品が平らになっても、生産計画まで平らに止まってしまうのは困りますからね。
保圧の大きさだけでなく、効いている時間
ゲートが固まって樹脂の供給経路が閉じると、それ以降に保圧時間を延ばしても、製品への樹脂の補給はできません。
保圧時間を段階的に変え、製品重量が増えなくなる時点を調べる方法は、ゲートシールを判断する手がかりになります。他の条件や温度状態をそろえて比較することが前提です。
入口が閉まった後まで頑張って押しても、樹脂は入ってくれません。「営業時間外です」と言われている状態です。
一度に全部変えず、反り以外の品質も見る
保圧、射出速度、樹脂温度、金型温度を一度に動かすと、改善しても何が効いたのか分からなくなります。
まずは材料メーカーの推奨範囲内で、変更項目を絞って比較します。反り量だけでなく、製品重量、主要寸法、ヒケ、バリ、離型状態も一緒に記録しましょう。
「反りは直りました。ただし、はまりません」では、製品として合格にならないからです。
反りの出方から、確認する場所を絞ってみよう
次の表は、これまでの発生要因をもとに整理した、切り分けの目安です。症状だけで原因を断定するものではありません。
| 反りの出方・変化 | 優先して確認したいこと |
|---|---|
| 冷却時間を延ばすと改善する | 取り出し時の温度・剛性、局所的な冷却不足、突き出し負荷 |
| 成形開始直後と、連続成形中で変わる | 金型の温度安定、回路ごとの流量、熱がこもる場所 |
| リブやボス周辺を中心に変形する | 局所的な厚肉、形状の非対称、周辺の冷却状態 |
| 保圧条件を変えると反り方が変わる | 保圧の伝達、ゲートシール、収縮分布の変化 |
| 突き出し・取り出し時に曲がる様子が見える | 離型抵抗、ピン配置、取出機の保持位置 |
| 多数個取りで特定の製品だけ反る | キャビティごとの冷却・充填・ゲート・突き出しの差 |
| 取り出してから時間がたつと変わる | 離型後の冷却、後収縮、応力の緩和、保管条件 |
測定するときは、成形後の経過時間、温湿度、測定位置、支持方法をそろえます。手で押さえながら測ると、反りを測っているのか、指の頑張りを測っているのか分からなくなります。
PAなど吸水性のある材料では、成形後の吸水によって寸法も変化します。時間がたってからの変化を、すべて冷却不足や後収縮と決めつけないことも大切です。
条件を変えても直らないときは、金型・製品形状を見直す
条件調整で反りは減るものの、バリやヒケが出る。あるいは、ほんの少し条件が変わるだけで不良になる。
そんな場合は、条件だけで支え続けるのが難しい状態かもしれません。
局所的な厚肉を減らす、冷却しにくい部分の構造を変える、ゲート位置や断面を見直す、離型抵抗を減らすなど、原因に合わせて検討します。
流動・保圧・冷却・反り解析も、対策案を比べる助けになります。解析では、冷却差・収縮差・配向差などの影響を分けて検討できます。ただし、結果は使用する材料データや条件設定に左右されるため、実際の成形結果との照合が必要です。
また、安定して残る反りに対して、金型形状を逆方向に補正する方法を検討することもあります。ただし、先に反り方の再現性を確認したいところです。
毎回違う方向に反っている状態では、補正する相手が動き続けています。待ち合わせ場所を決めたのに、相手がずっと散歩しているようなものです。
反り量をそのまま逆向きに金型へ足せば必ず直る、という単純な関係でもありません。まず安定させ、そのうえで残る変形への補正を考えるという順序が大切です。
まとめ|反り対策は「縮み方の差」を探すところから
成形品の反りは、肉厚、冷却、ゲート、材料の配向、金型構造、離型などが関係して発生します。
同じ「端が浮く」という症状でも、厚肉部に熱が残っているのか、保圧の効き方に差があるのか、取り出す瞬間に曲げているのかで、必要な対策は変わります。
だからこそ、やみくもに条件を動かす前に、どこが、いつ、どちらへ反るのかをそろった条件で観察することが近道です。
成形品は、気まぐれで曲がっているわけではありません。こちらから見ると、なかなかの気まぐれに見える日もありますが。
まずは製品の「縮み方」と、金型の「冷やし方・流し方・取り出し方」を、一緒に見直してみましょう。

リアクション投稿