「このリブ、もう少し薄くできますか?」
「穴の位置を、あと1mmだけ動かしたいんです」
金型を製作したあと、実際に成形品を手にして初めて見えてくることがあります。相手部品とうまく合わない、想像よりたわむ、組み立てると少し当たる。図面や3Dデータの確認だけで、すべてを見抜くのはなかなか難しいものです。
ですから、私たち金型を作る側も、設計変更そのものが悪いとは思っていません。良い製品にするために必要な変更はあります。
ただ、そこでお伝えする改造費用に、「えっ、少し変えるだけなのに?」となることも。
お気持ちはよく分かります。画面の中なら寸法を打ち替えるだけですからね。残念ながら、完成した鋼材には「元に戻す」ボタンがありません。あったら弊社でも、かなり大きめのボタンを設置したいところです。
今回は、金型製作後の設計変更で費用が高くなりやすい理由と、比較的変更しやすい部分・難しい部分の違いを、製作現場の視点からお話しします。
「何mm変えるか」より「どう直すか」で費用が変わる
設計変更の費用は、変更する寸法の大きさだけでは決まりません。
1mm動かす変更より、0.1mm薄くする変更のほうが大変な場合もあります。金型側で鋼材を削れば済むのか、それとも鋼材を足したり、部品を作り直したりする必要があるのか。この違いが、作業内容を大きく左右するからです。
また、同じ変更でも、対象が取り外せる小さな入れ子なのか、大きなキャビティに直接加工されている部分なのかで話は変わります。
家の模様替えでも、椅子を少し動かすのと、柱を少し動かすのでは大違いですよね。どちらも「ちょっと位置を変える」ですが、後者を気軽に言われると、いったんお茶を飲みたくなります。
金型でも、変更箇所がどんな構造の中にあるかを確認しなければ、難易度は判断できません。
基本は「金型を削る変更」と「金型に足す変更」
射出成形では、金型の中にある製品形状の空間へ樹脂を充填します。そのため、単純な形状で考えると、金型の鋼材を削って空間を広げれば、その部分の製品は厚く、大きくなります。
反対に、製品を薄く、小さくしたい場合は、樹脂が入る空間を狭めなければなりません。そのために金型側へ鋼材を足す必要が出ることがあります。
「製品の肉を減らす」と「金型を削る」は、同じ意味ではありません。
ここが少しややこしいところです。製品を見ながら「ここを削りたい」と話していても、金型では「そこは肉盛りが必要ですね」となることがあります。
例えば、金型に加工した溝で製品のリブを作っている場合、リブを厚くするには溝を広げます。一方、リブを薄くするには溝の幅を狭める必要があるため、削るだけでは対応できません。
既存の金型から金属を除去できる方向へ変更を見込む考え方は、「スチールセーフ」とも呼ばれています。参考:Protolabsの設計変更に関する解説
ただし、これは基本的な考え方です。削る方向であっても、工具が届かない、周囲の鋼材が薄くなる、冷却穴に近づきすぎるといった理由で、簡単には変更できない場合があります。
金型製作後の変更で費用が高くなる5つの理由
1.加工前後の作業が、もう一度必要になる
完成した金型は、部品を組み込み、動作や当たりを調整した状態です。そこから変更対象の部品を取り出し、必要な加工を行い、再び組み立てます。
変更内容によっては、分解、洗浄、現状測定、加工の段取り、仕上げ、組立調整まで必要です。
実際に鋼材を削っている時間が短くても、その前後に作業があるわけです。「加工は30分で終わりそう」に見えても、仕事全体が30分で済むとは限りません。
料理でいえば、炒める時間だけ見て「3分でできるでしょう」と言われるようなもの。材料を切る人と、最後にフライパンを洗う人の存在も、どうか忘れないでください。
2.完成済みの部品は、自由に加工できない
新作時は、加工しやすい順番を考えて製作します。ところが完成後の改造では、すでに形状ができており、その状態から加工しなければなりません。
深い位置や狭い隙間では、刃物が届かず、放電加工が必要になることもあります。その場合は、加工用の電極を新しく作る作業も加わります。
また、焼入れ済みの鋼材では加工方法が制約されます。表面処理を施した部品なら、変更範囲によって処理のやり直しを検討する場合もあります。
「最初からこの形に作る」のと、「完成した形からこの形に直す」のは、別の仕事なのです。
3.肉盛りは「埋めれば完成」ではない
鋼材を足す必要がある場合、溶接による肉盛りが選択肢になります。ただし、どんな場所でも同じように適用できるわけではありません。
鋼材の種類や熱処理状態、肉盛りする範囲、求められる外観などを踏まえて判断します。溶接による変形や割れ、硬さの差、仕上げ後の溶接境界の見え方などにも配慮が必要です。
肉盛り後には、形状を加工し直し、必要に応じて磨きや当たり調整も行います。特に外観面では、寸法が合っていても、成形品に補修箇所の違いが現れると問題になります。
「埋めて、ちょっと磨いて終わり」で済めば助かるのですが、金型はそのあたり、なかなか気を利かせてくれません。
場所や要求品質によっては、無理に肉盛りするより、入れ子化や部品の再製作を選んだほうがよい場合もあります。
4.一つの変更が、周囲の構造に影響する
製品図面上では小さな変更でも、金型の中では別の部品や機構と関係しています。
例えば穴の位置を動かす場合、穴を成形するピンだけでなく、そのピンを保持する穴の位置も変わります。新しい位置にエジェクタピンや冷却穴があれば、周囲も含めて検討が必要です。
アンダーカット形状の変更なら、スライドコアの先端だけでなく、スライドの移動量や周辺との干渉確認まで関わることがあります。
図面の矢印は1本でも、現場の確認事項は1個とは限りません。
5.変更後の製品確認まで必要になる
形が直れば、必ず元どおり安定して成形できるとは限りません。
肉厚やリブの変更で樹脂の流れ方や冷え方が変われば、ヒケ、反り、寸法、離型性などへの影響を確認する必要があります。
必要に応じて再トライと測定を行い、その結果から追加調整を検討します。改造費用の比較では、金型加工だけの金額なのか、トライや測定、輸送なども含むのか、範囲をそろえて確認することが大切です。
比較的変更しやすい部分とは?
取り外して加工・交換できる入れ子
変更箇所が独立した入れ子になっており、その範囲内で対応できれば、金型本体への加工を抑えられます。
製品の一部形状や刻印などを、交換できる構造にしておく方法です。将来変更する可能性が高い場所では、有効な備えになります。
ただし、「入れ子だから何でも簡単」というわけではありません。周囲との合わせ、固定方法、強度、冷却、製品に残る合わせ目などの条件があります。変更が入れ子の範囲を超えれば、周辺部品の改造も必要です。
工具や電極が届き、鋼材を除去するだけで済む部分
周囲に余裕があり、加工する面にアクセスできる部分は、比較的対応しやすい傾向があります。
例えば、単純なリブ溝の幅を広げる変更などです。ただし、製品側の肉厚を増やすとヒケが出やすくなる場合があるため、加工のしやすさとは別に、成形品として成立するかも確認します。
金型が直しやすいことと、製品にとって良い変更であることは、分けて考える必要があります。
交換を前提にしたピンや刻印部品
独立した成形ピンや交換式の刻印入れ子などは、対象部品の再製作で対応できる場合があります。
一方で、ピンの直径を変える話と、ピンの位置を動かす話は別です。位置変更では保持穴や周辺構造に手が入るため、同じ「ピンの変更」でも費用は変わります。
変更が難しくなりやすい部分とは?
| 変更内容 | 難しくなりやすい理由 |
|---|---|
| リブを薄くする・なくす | 金型のリブ溝を狭める、または埋める必要がある |
| 穴の位置を動かす | 成形ピンの保持穴の変更や、元の穴への対応が必要になる |
| PL面付近の形状を変える | 固定側・可動側の合わせや、バリを防ぐ当たりに影響する |
| アンダーカットを追加・変更する | スライドなどの機構や設置スペースの検討が必要になる |
| 広い外観面を変更する | 肉盛り跡、磨き、シボなど、仕上がりをそろえる難しさがある |
| 冷却穴の近くまで形状を広げる | 鋼材の肉厚不足や冷却穴との干渉が問題になる |
※一般的な傾向です。実際の難易度は、入れ子構造、鋼材、加工方法、要求精度などで変わります。
特にPL面は、金型が閉じたときに樹脂を止める重要な部分です。一方の形状だけを変えれば済むとは限らず、相手側との整合や当たりも確認します。
また、4個取り・8個取りなどの多数個取りでは、同じ変更を複数箇所に反映する必要があります。加工の準備を共通化できる部分はあっても、各箇所の加工・仕上げ・測定・調整は残ります。
「変更は1か所」というのが、製品1個の中での話なのか、金型全体での話なのか。ここも、見積もりを左右するポイントです。
改造より、入れ子を作り直したほうがよい場合もある
「せっかく作ったのだから、今の部品を何とか使いたい」
そのお気持ちは、作った側としてもよく分かります。ただ、広い範囲の肉盛りや複雑な追加工を重ねると、新しく作るより工数が増えることがあります。
さらに、寸法や外観、耐久性を安定させにくい場合は、既存部品を残すことだけにこだわらないほうがよいこともあります。
ここでいう再製作は、必ずしも金型一式の新作ではありません。モールドベースや周辺部品を活用し、対象の入れ子やスライドコアだけを作り直す方法もあります。
大切なのは、「改造」という名前なら安いと考えず、費用・納期・品質を合わせて比較することです。
設計変更の費用を抑えるために、製作前からできること
変更の可能性がある場所を、先に共有する
「この穴位置はまだ確定していません」
「このリブは、試作後に高さを調整するかもしれません」
こうした情報が製作前にあれば、入れ子の分割や、後から加工できる方向を検討できます。
もちろん、何でも入れ子にすればよいわけではありません。部品数や初期費用が増え、合わせ目や冷却設計への影響も出るため、変更の可能性が高い箇所を絞ることが大切です。
寸法変更だけでなく、変更の目的も伝える
「ここを0.2mm変えてください」に加えて、「組立時の引っ掛かりをなくしたい」「はめ合いを少し緩くしたい」と目的も共有していただけると、別の方法を検討しやすくなります。
指定された面を直すのは大変でも、相手側の形状や局部的な逃がしで、同じ目的を達成できる場合があります。
もちろん、機能や強度、外観の条件を満たすことが前提です。それでも、目的が分かれば、こちらから出せる案は増えます。
変更前後のデータと、変更箇所をそろえる
変更後の3Dデータだけでは、どこが変わったのか確認に時間がかかる場合があります。
変更前後の図面・3Dデータに加え、変更箇所を示した資料があると、検討が進めやすくなります。関連寸法や公差、変更理由、希望時期も分かると助かります。
図面の間違い探しは、できれば仕事の難易度に含めたくないところです。赤丸一つに救われる日もあります。
加工後の寸法調整と、仕様変更を分けて整理する
当初から予定していた試作後の寸法調整と、新たな製品仕様に基づく設計変更は、作業の前提が異なります。
どこまでが当初の見積範囲で、どこからが追加費用になるかは、契約内容や変更理由によって異なります。変更を進める前に、対象範囲と費用、納期、トライの分担を確認しておくと、認識のずれを防げます。
「少しの変更」でも、まず金型側で何が変わるかを確認する
金型製作後の設計変更が高くなるのは、寸法を書き換えるだけではなく、完成した鋼材と組み上がった構造を、もう一度成立させる必要があるからです。
削るだけで対応できる部分や、独立した交換部品は比較的変更しやすい一方、肉盛りが必要な部分、PL面、スライド機構、冷却穴に関わる変更は、作業が広がりやすくなります。
私たちとしても、必要な変更をできるだけ無理のない方法で実現したいと考えています。そのためにも、「この寸法にしたい」という情報に加えて、「何を改善したいのか」まで共有していただけると助かります。
金型に「元に戻す」ボタンはありませんが、変更の方法を一緒に考えることはできます。
「まだ決定ではないのですが、ここを変える可能性があって……」
そんな段階でのご相談も歓迎です。鋼材を削る前なら選べる方法が増えることもありますので、設計変更が見えてきたら、ぜひ早めにお声がけください。

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