金型の仕事をしていると、一日があっという間に終わります。
加工の段取りをして、図面を確認して、組み付けて、気になるところを調整する。その間に電話が鳴り、見積もりの依頼が届く。「今日は少し余裕がありそうだ」と思った朝の自分に、夕方には事情聴取をしたくなります。
そんな毎日の中で、機械の説明書を読んだり、CAD/CAMの機能を調べたりする時間は、どうしても後回しになりがちです。
「勉強するのは大事。でも、今は仕事が先」
その気持ちはよく分かります。ただ、金型をつくる立場として考えておきたいのは、その忙しさの中に、知らないために繰り返している手間が混じっていないかということです。
「とりあえずできる」は便利。でも、そこで止まるともったいない
新しい機械やソフトを導入したとき、まず必要なのは、目の前の仕事を進められるようになることです。
基本操作を覚え、加工できるようになる。これは当然、大切です。
ところが、一度仕事が回り始めると、その方法がいつの間にか定番になります。「もっと簡単にできないか」と調べるより、慣れた操作で済ませた方が、その場では早いからです。
例えば、CADで毎回同じような作業を手動で繰り返しているとします。機能を調べれば手順を減らせるかもしれませんが、調べて試すには時間がかかる。今日の納期だけを考えれば、いつもの方法を選びたくなります。
問題は、その「今日だけ」が何十回、何百回と続くことです。
気づけば、操作にはものすごく習熟しているのに、操作そのものを減らす機会は逃している。遠回りの道を、誰よりも速く走れるようになっていた、というわけです。
30分の勉強は、30分の損なのか
仮に、ある操作を覚えるのに30分かかったとします。その結果、毎回の作業を5分短縮でき、同じ作業が月に20回あるなら、減らせる時間は月100分です。
もちろん、これは単純化した例です。実際には試す時間も、品質を確認する時間も必要ですし、覚えた機能が仕事に合わないこともあります。
それでも、目の前の30分だけを見て「もったいない」と判断すると、その後に減らせたはずの時間は見えなくなります。
ここで分けて考えたいのが、仕事を処理するための時間と、次からの仕事を楽にするための時間です。
どちらも時計の上では同じ30分です。しかし、後者には、これから何度も発生する手間を減らす可能性があります。
学ぶ時間は、仕事から離れている時間のように見えることがあります。けれど、仕事の進め方を改善するための学習なら、それも立派な仕事の一部です。
すぐに役立つことだけが、役に立つとは限らない
「タイパ」や「コスパ」という尺度で考えれば、必要なことだけを短時間で覚えるのは合理的です。ただ、今日の効率だけで判断すると、将来の自分を助ける学びまで「無駄」に分類してしまうかもしれません。
「若いうちは遠回りをした方がよい」という言葉も、そう考えると腑に落ちます。わざわざ苦労を増やすというより、経験の浅いうちは、何が後で役立つかもまだ分からない。少し気になって調べた仕組みや、試してうまくいかなかった理由が、後になって別の問題を解く手がかりになることもあります。
仕事への向き合い方でも、「なぜこうなるのか」より「これを覚えたら評価されるか、報酬につながるか」が先に立つと、学ぶ範囲を必要最小限に絞りたくなるのではないでしょうか。評価や報酬はもちろん大切です。ただ、それだけを物差しにすると、すぐには見返りのない知識に手が伸びにくくなる気がします。
「今の仕事には要らないけれど、ちょっと知りたい」。そんな好奇心にも、居場所があってよいと思います。知識は、覚えたその日に領収書付きで元を取らせてくれるとは限りません。
本当に減らしたいのは、同じところで困る回数
金型づくりでは、手を動かして解決する力が欠かせません。現物を見て、当たりを確認し、必要な調整をする。そうした技術の価値は、機械が進歩してもなくならないと思います。
ただし、うまく直せたことと、次も同じ修正が必要でよいことは、別の話です。
毎回似たところで手直しが出るなら、加工方法や設計、確認手順に見直せる部分がないか。一度立ち止まって考える意味があります。
例えば、組み付けのたびに同じ確認で迷うなら、図面への記載やチェック項目を見直す。CAMの設定で毎回悩むなら、設定の意味を調べ、適用条件と一緒に記録する。
こうした学習は、派手ではありません。新しい設備のように、工場へ搬入された瞬間に「おおっ」と言われるものでもありません。
でも、繰り返していた確認ややり直しが減れば、その分だけ別の仕事に時間を使えます。
同じ品質の仕事を、少ない手間で安定して仕上げられるようにする。 生産性を上げるというのは、現場ではそういう積み重ねなのだと思います。
「もっと勉強して」で片づけない
ここまで書くと、「だから従業員はもっと勉強すべきだ」という話に聞こえるかもしれません。ただ、学ぶことを個人の意欲だけに任せても、続けるのは難しいはずです。
予定が仕事で埋まっているのに、勉強する時間だけはどこかから出してほしい。これでは時間にまで追加工をお願いすることになります。
会社としても、調べたり試したりする時間を確保する必要があります。そして、覚えたことを実務に使い、結果を確かめるところまでつなげたいところです。
例えば、「毎回時間がかかる作業」を一つ選び、改善方法を調べて試す。うまくいけば、手順と注意点を残す。合わなければ、なぜ合わなかったかを残す。
その記録があれば、次の人が同じところで最初から悩まずに済みます。
また、手直しに追われている姿は目に入りやすい一方、手直しが出ないように工夫した成果は、意識しないと見逃してしまいます。トラブルを解決した人だけでなく、起こりにくい仕事の進め方をつくった人にも目を向けたいものです。
学んだ量より、仕事がどう変わったか
もちろん、説明書を端から端まで暗記する必要はありません。好奇心を広げる時間も大切にしながら、学んだことを目の前の仕事で試す機会もつくりたいところです。
まずは、普段の仕事で少し気になっていることからでよいと思います。
「この入力は毎回必要なのか」
「この確認は、もっと分かりやすくできないか」
「なぜ、いつもここで調整が必要になるのか」
そんな疑問を一つ調べ、実際に試してみる。そこで得た知識が別の仕事にも使えれば、学ぶ意味はさらに広がります。
学んだことが仕事をどう変えたかは、確かめていきたいところです。ただし、すべての学びに即日で成果を求める必要はありません。後になって効いてくる知識も含めて、自分の引き出しを増やしていくことには意味があります。
忙しいときほど、いつもの方法で走り切りたくなります。それが必要な日もあります。ただ、ずっと走り続けるためにも、ときには足を止めて、道を見直したいところです。
私たち金型メーカーが削っているのは、鉄だけではありません。
知識と工夫で、明日の余計な手間も少しずつ削っていく。そんな時間を大切にしたいと思います。

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