金型修理をご相談いただく際、弊社から「不具合の出ている製品サンプルも、一緒に送っていただけますか?」とお願いすることがあります。
「修理するのは金型なのに、製品も必要なの?」と思われるかもしれません。
もちろん、金型そのものを確認することは大切です。ただ、金型だけでは、実際の成形で何が起きているのか分からない場合があります。
そこで手がかりになるのが、成形された製品です。
小さなバリや擦れた跡にも、修理の方向性を考えるための情報が残っています。こちらとしては、きれいに仕上げた製品よりも、「まさにこれで困っています」という製品をいただけると助かります。
今回は、金型メーカーの立場から、修理に製品サンプルが必要な理由と、送っていただく際のポイントをご紹介します。
金型を見れば、原因はすぐ分かる?
部品が折れている、明らかに欠けている。こうした不具合なら、金型を確認することで修理箇所を把握できる場合があります。
一方、バリや白化、離型時の傷などは、話が少し違います。
金型は、成形機に取り付けられ、温度が上がり、樹脂の圧力がかかった状態で仕事をしています。作業台の上で止まっている状態と、実際に成形している状態では、見えてくるものが違うのです。
例えば、停止中には分かりにくいわずかな開きが、成形時の圧力によって生じ、バリにつながることもあります。
金型を眺めて「ここが怪しい」と考えることはできても、それが今回の不具合と結びついているかは、別の話です。
金型の状態と、実際に出ている不具合を照らし合わせる。そのために製品サンプルが役立ちます。
「バリが出る」の一言にも、いろいろな状態がある
例えば、「製品の端にバリが出ています」というご連絡。
これだけでも概要は伝わりますが、修理を考えるには、もう少し詳しく知りたいところです。
- パーティングライン(PL)のどの範囲に出ているのか
- スライドや入れ子の境目に沿って出ているのか
- 薄く広がっているのか、一部分に厚く出ているのか
- 毎回同じ位置に出るのか、出方にばらつきがあるのか
製品を実際に確認できれば、こうした状態を金型の構造と照らし合わせられます。
白化や傷の場合も同じです。発生位置や広がり、擦れた方向などを確認することで、離型時に抵抗がかかっていそうな箇所や、突き出しとの関係を検討しやすくなります。
ただし、製品を一つ見れば原因がすべて分かる、というわけではありません。製品サンプルは答えそのものではなく、原因を絞り込むための大事な手がかりです。
金型屋も、製品を手に取った瞬間にすべて見抜ける超能力者ではありません。そうなれたら納期の相談も少し楽になるのですが、現実は地道な確認の積み重ねです。
写真だけでは伝わりにくいことがある
写真は、最初のご相談でとても役立ちます。製品全体と、不具合箇所のアップがあるだけでも、話が進めやすくなります。
ただ、小さなバリや浅い傷は、光の当たり方によって見え方が変わります。写真では大きな段差に見えたものが、実際には薄いバリだった、ということも考えられます。
実物があれば、角度を変えて観察したり、必要に応じて拡大・測定したりできます。組み付けに影響する不具合なら、相手部品と合わせて確認したい場合もあります。
写真で概要を共有し、必要に応じて実物で詳しく確認する。 この流れにすると、認識のずれを減らしやすくなります。
不良品だけでなく、良品もあると比較しやすい
不具合の出ている製品に加えて、以前は問題なく成形できていた製品があれば、ぜひ一緒にご用意ください。
比較することで、「もともとあった跡」と「最近出てきた不具合」を区別しやすくなります。
例えば、エジェクタピンの跡が以前より目立つようになった場合。今の製品だけでは、どの程度変化したのか分かりにくくても、過去の良品があれば比較の基準になります。
また、見た目の不具合には、「どこまでなら許容できるのか」という判断もあります。図面だけでは表しきれない外観の基準を共有するうえでも、承認済みの良品や限度見本が役立ちます。
ただし、良品と不良品を同じ袋に入れると、こちらで仕分け試験が始まってしまいます。
「以前の良品」「今回の不良品」など、袋を分けて表示していただけると助かります。材料や成形条件が違う場合は、その違いもお知らせください。
サンプルは、バリを取らずに送ってください
ここは、特にお願いしたいポイントです。
不具合の出ている製品は、できるだけ手直し前の状態で残してください。
バリを削ったり、傷を磨いたりすると、発生位置や形状など、確認したかった情報がなくなってしまいます。
せっかく気を遣ってきれいにしていただいても、修理をする側としては「そのバリを見たかったんです……」となってしまいます。
不良サンプルに関しては、きれいにしないことが、ありがたい気遣いです。
不具合箇所を示す場合は、製品全体の写真に丸や矢印を入れる方法がおすすめです。実物に印を付ける場合も、確認したい傷やバリそのものをペンやテープで覆わないようにしてください。
輸送中の傷と元からある傷を区別できるよう、製品同士が擦れない梱包もしていただけると助かります。
何個送ればいい? 取り数や不具合の出方に合わせて
必要なサンプル数は、不具合の種類や確認内容によって変わります。まずは修理先に確認していただくのが確実です。
毎回同じ不具合が出る場合と、何十ショットかに一度だけ出る場合では、見たい情報も違います。
出方にばらつきがある場合は、不具合が強く出ているものと軽いもの、正常なものが比較できると助かります。「一番ひどい一個」だけでは、普段の状態まで分からないことがあるためです。
複数個取りの金型であれば、どのキャビティから出た製品なのかも重要です。
特定のキャビティだけに発生しているのか、すべてで発生しているのか。この違いは、確認する箇所を絞る手がかりになります。可能であれば、同じショットで成形した各キャビティの製品を、対応が分かる状態でご用意ください。
製品サンプルと一緒に、成形時の情報も
サンプルがあっても、「いつ、どんな状態で成形したものか」が分からないと、判断しにくい場合があります。
分かる範囲で、次の情報も添えていただけるとスムーズです。
| 情報 | お知らせいただきたい内容 |
|---|---|
| 不具合箇所 | 製品全体の写真と、該当箇所の拡大写真 |
| 発生時期・頻度 | 急に出始めた、徐々に悪化した、毎回ではない、など |
| 使用材料 | 樹脂の種類・グレード、材料変更の有無 |
| 成形条件 | 条件表、成形機や条件を変更したかどうか |
| サンプルの区別 | 成形日、キャビティ番号、良品・不良品の表示 |
| これまでの対応 | 条件調整や金型修理をした内容と、その結果 |
| 判断基準 | 図面、承認済みの良品、限度見本、必要に応じて相手部品 |
すべての情報がそろうまで、相談できないという意味ではありません。まずは、分かっていることをお伝えいただければ大丈夫です。
例えば、「保圧を下げるとバリは減るが、今度は寸法が出ない」という情報があれば、単にバリだけを止めればよい話ではないことが分かります。
不具合を一つ直して別の問題が出てしまっては、困りごとの引っ越しです。必要な品質を保ちながら改善するためにも、成形側の状況を共有していただくことが大切です。
修理後の確認にも、修理前のサンプルが役立つ
製品サンプルは、修理箇所を考えるときだけに使うものではありません。
修理後に試作した製品と比較すれば、バリや傷がどの程度変わったか、別の箇所に影響が出ていないかを確認しやすくなります。
このとき、材料や成形条件が大きく違うと、変化が修理によるものなのか判断しにくくなります。できるだけ比較できる条件をそろえ、変更した点は記録しておくことが大切です。
金型の当たりや動作が改善していても、実際の製品で必要な品質を満たしているかは、成形して確認する必要があります。
その比較の基準として、修理前のサンプルを残しておく意味があります。
金型と製品、両方そろうと修理の話が進めやすい
製品サンプルをお願いするのは、確認するものを増やしたいからではありません。実際の不具合を正しく把握し、必要な修理を検討するためです。
なお、折れた部品の交換など、修理内容が明確な場合には、製品サンプルがなくても進められることがあります。サンプルが手元にない場合も、まずは写真や不具合の状況をお知らせください。
一方、バリ・白化・傷・変形といった成形品の問題では、実物が大きな手がかりになります。
名岐金型へ金型修理をご相談いただく際は、可能であれば、不具合の出ている製品も金型と一緒にお送りください。以前の良品や成形時の情報もあると、より具体的に検討できます。
そして、バリは取らずに、そのままで。
普段なら取り除きたいそのバリも、修理のときには大事な情報を持ったサンプルです。
技術参考:成形時の金型の変形・開きとバリの関係については、キーエンス「バリの原因、金型のひずみ検査」を参照。

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