抜き勾配がない製品はどうなる?金型製作前に確認したい設計ポイント

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製品の3Dデータを確認していると、ときどき出会うのが「どこまでも真っすぐな壁」です。

見た目はすっきり。寸法もわかりやすい。設計画面の中では、実にお行儀よく収まっています。

ところが金型屋の目線では、ひとつ気になることがあります。

「これ、金型からちゃんと抜けるかな……?」

CADの中では、製品を好きな方向に動かせます。しかし、実際の金型には「ちょっと透過表示にして取り出す」という便利な機能はありません。あったら現場で大人気ですが、残念ながら鋼材は鋼材です。

そこで大切になるのが、抜き勾配です。

今回は、抜き勾配がない製品で起こりやすいトラブルと、金型製作前に確認しておきたい設計ポイントを紹介します。

目次

抜き勾配とは?製品を取り出すための「わずかな傾き」

抜き勾配とは、成形した製品を金型から取り出しやすくするために、抜く方向に沿う側面へ付ける傾きのことです。

たとえば、少し口が広がったプリンの容器を思い浮かべると、イメージしやすいと思います。あの形は、見た目だけでなく、中身や容器を型から外すうえでも都合のよい形です。

金型でも考え方は同じです。適切な勾配があれば、製品が抜ける方向へ動くにつれて、金型との間に逃げができます。一方、勾配がゼロの平行な面では、動かしても幾何学的な逃げが生まれにくく、接触が続きやすくなります。

さらに、樹脂は冷えて固まる過程で収縮します。箱形状の内側などでは、製品がコアを締め付ける状態になることもあります。

「冷えたら縮むなら、勝手に離れるのでは?」と思われるかもしれませんが、外側の型から離れる場合と、内側の芯を抱き込む場合とでは事情が違うのです。

抜き勾配がないと、必ず成形できない?

先に結論をいうと、抜き勾配がゼロだからといって、必ず成形不可能になるわけではありません。

抜く距離が短い部分や、材料・表面仕上げ・離型方法などの条件が合う部分では、勾配がほとんどなくても成立することがあります。機能上、どうしてもストレートな形状が必要な製品もあります。

ただし、ここで区別したいのは、「一度取り出せた」と「量産で安定して取り出せる」は別の話ということです。

試作では何とか抜けた。でも、連続成形ではときどき引っかかる。条件が少し変わると白化する。外観不良が出て、毎回確認が必要になる。

これでは「成形できました!」の後ろに、なかなか長い注意書きが付いてしまいます。

大切なのは、必要な品質を保ち、繰り返し無理なく取り出せる設計にしておくことです。

抜き勾配が不足すると起こりやすいトラブル

1.製品の側面に擦り傷や引きずり跡が付く

金型との接触が強いまま製品を取り出すと、側面に擦り傷や引きずり跡が生じることがあります。

せっかく金型の表面をきれいに仕上げても、最後の取り出しで傷が付いてしまってはもったいない話です。洗車した直後に、狭い生け垣へ突っ込んでいくようなものです。

特に外観面では、わずかな擦れや光沢の違いでも目立つことがあります。表面仕上げと抜き勾配は、セットで検討したい項目です。表面の凹凸が離型時の引っかかりにつながる点は、Protolabsの表面仕上げガイドでも説明されています。

2.白化や変形、場合によっては割れにつながる

抜けにくい製品を無理に押すと、押された部分や引っかかっている部分に力が集中します。

その結果、樹脂や形状によっては、白化、変形、割れなどにつながることがあります。薄い壁や細いリブなどは、特に注意したい部分です。

成形直後の製品は、十分に冷えた状態ほど剛性が高くない場合もあります。「あと少し強く押せば取れるでしょう」と頑張った結果、取れたけれど曲がっていた、では困ります。

離型時の変形が疑われる場合は、成形条件だけでなく、勾配、引っかかる位置、押し出し方を合わせて確認します。

3.エジェクタピンの跡が目立ちやすくなる

一般的な金型では、型が開いた後、可動側に残った製品をエジェクタピンなどで押し出します。

このとき、離型抵抗が大きいと、押し出す箇所にも大きな負担がかかります。ピンの位置や受ける面積が適切でなければ、局所的なへこみや白化などが問題になることがあります。

「ピン跡が目立つので、ピンを小さくしてほしい」という要望もありますが、小さくすると力を受ける面積が減り、かえって厳しくなる場合があります。

ピンも、細くなったうえで仕事量だけ増やされては大変です。

ピン跡は、ピンの大きさだけでなく、製品が抜けにくい原因までさかのぼって考えることが大切です。勾配や側面の仕上げ、壁・リブの深さ、樹脂の種類が押し出し設計に影響することは、Protolabsのエジェクタピン解説でも紹介されています。

4.成形条件の調整や金型修正が増える

抜けにくさを補うため、冷却時間や突出速度などを調整することがあります。ただし、その調整で別の問題が出たり、成形サイクルが長くなったりすれば、生産性にも影響します。

なお、冷却時間を長くすれば必ず改善するわけでもありません。製品の剛性は上がっても、収縮によるコアの締め付けが強くなる場合があり、材料や形状に応じた判断が必要です。

それでも安定しなければ、磨き直し、勾配の追加、突出構造の変更などを検討することになります。

データ上なら比較的変更しやすかった形状も、鋼材になってからでは、追加工だけで済むとは限りません。修正する方向によっては、肉盛りや入れ子の作り直しが必要になります。

「ほんの少し傾けるだけ」が、金型完成後にはなかなか大きな仕事になるのです。

抜き勾配は何度あればよい?

一般的な設計の出発点として、1~2°程度が挙げられます。ただし、これは「この角度なら何でも大丈夫」という保証値ではありません。

必要な角度は、材料、抜く距離、収縮、表面仕上げ、押し出し方法などで変わります。Protolabsの抜き勾配ガイドも、角度の目安とともに、こうした条件による判断の必要性を示しています。

たとえば同じ1°でも、浅い形状と深い形状では検討条件が違います。細く深いリブと、低く開放的な壁を、同じ感覚で扱うことはできません。

また、勾配の角度は通常、片側の面について考えます。左右それぞれに1°を付けた場合、両面のなす角度は2°です。図面で角度を指示するときは、どちらを意味しているのかが伝わるようにしておきましょう。

**「とりあえず全部1°」で終わらせず、厳しい箇所を拾い上げる。**これが大切です。

金型製作前に確認したい7つの設計ポイント

1.最初に「どちらへ抜くか」を決める

抜き勾配は、金型から抜く方向を基準に確認します。

画面上で斜めになっているからといって、そのまま抜き勾配になっているとは限りません。主型の開閉方向に対する勾配と、スライドが動く方向に対する勾配は、分けて考える必要があります。

まずは型開き方向とPL(パーティングライン)、スライドなどで処理する範囲を確認しましょう。

CADの抜き勾配解析も役立ちますが、解析方向の設定が違えば、結果の読み方も変わります。色が付いたから安心、ではなく、「何に対する色分けなのか」を確認することが大切です。

2.外周だけでなく、内側の壁・リブ・ボスも見る

外観に関わる外周には勾配が付いていても、裏側のリブやボスがストレートのまま、ということがあります。

特に確認したいのは、深い内壁、高いリブ、ボスの内外周、深い穴、狭い溝の側面です。

ただし、同じ「リブ」でも、位置や周囲の形状によって離型時の状態は異なります。一括で角度を付けるだけではなく、抜く距離や周囲の肉厚、どこから押せるかまで見ておきます。

製品の表側はきれいでも、裏側で金型とがっちり握手していることがあります。できれば、握手はほどほどでお願いしたいところです。

3.シボ面は、模様を決める段階で勾配を確認する

シボとは、製品表面に付ける細かな凹凸模様です。

見た目や手触りを整える一方で、抜く方向に沿う面では、その凹凸が離型に影響します。シボの深さや模様によって、必要な勾配も変わります。

ここで避けたいのが、「金型完成後に、もう少し深いシボに変更しましょう」という進め方です。見た目の変更のつもりが、抜きやすさまで変えてしまうことがあります。

シボ面の位置と模様の仕様は早めに共有し、金型製作先・シボ加工先と必要勾配を確認しておきましょう。先ほどの表面仕上げガイドでも、凹凸仕上げには追加の勾配が必要となる例が示されています。

4.「どの位置の寸法を守るか」を決める

抜き勾配を付ければ、高さ方向で寸法が変わります。

たとえば高さ30mmの壁に片側1°の勾配を付けると、上端と下端の横方向の差は、次の計算で約0.52mmになります。

30mm × tan 1° ≒ 0.52mm

左右対称にそれぞれ1°を付けた幅なら、両端の幅の差は約1.05mmです。

「たった1°」でも、寸法にすると意外に大きいですよね。角度は控えめなのに、寸法への主張はなかなか強めです。

そのため、嵌合部や取付部では、開口側、底側、途中の基準断面など、どの位置で寸法を保証するかを決めておく必要があります。

金型側で勾配を追加する場合も、基準位置や形状を変更できる方向について、事前の合意が欠かせません。

5.勾配追加後の肉厚と、リブの先端幅を確認する

勾配を追加したら、外形寸法だけでなく肉厚も再確認します。

たとえば、リブの根元幅を固定して両側に勾配を付けると、先端へ向かって細くなります。高いリブほど、その差が大きくなります。

一方、先端幅を確保するために根元を広げれば、付け根が厚くなり、ヒケなどへの配慮が必要になります。

内壁と外壁の勾配の組み合わせによっても、肉厚分布は変わります。

「抜けるようにはなったけれど、今度は先端が薄すぎる」では、困りごとを隣へ引っ越しさせただけです。

勾配追加後は断面を確認し、肉厚、リブ幅、強度、成形性を合わせて見直しましょう。

6.どこで押し出すかを、製品設計の段階で考える

十分な勾配があっても、押し出し位置が悪ければ、変形やピン跡の問題は起こり得ます。

反対に、勾配が厳しい箇所の近くに押し出せる面がなければ、離型設計はさらに難しくなります。

外観上ピン跡を許容できる場所、薄肉部への負担、リブやボス周辺の支持を、製品設計と金型設計の両方から確認しておきたいところです。

ピンだけで難しい場合は、スリーブやストリッパーなどを検討することもあります。ただし、いずれも製品形状や金型内のスペースに応じた設計が必要です。

「押す場所はありません。でも、きれいに出してください」は、金型にとってなかなかの難題です。

7.勾配を付けられない場所は、理由と必要範囲を共有する

機能上、どうしても勾配を付けられない箇所はあります。

その場合は、「ここは勾配ゼロでお願いします」だけでなく、なぜ必要なのか、どこまで必要なのかを共有すると、検討しやすくなります。

たとえば、相手部品と接触する短い範囲だけをストレートにし、それ以外に逃げを設けられないか。嵌合する長さを短くできないか。型の分割方向を変更できないか。

条件によっては、スライドや分割構造、成形後の追加工なども候補になります。ただし、構造の複雑化や費用・納期への影響を含めて比較する必要があります。

なお、単に入れ子に分けるだけでは、離型方向や接触状態が変わらず、問題が解決しない場合もあります。「分割する」ことと「抜くときに逃げる」ことは、別に確認しましょう。

「磨けば抜ける」「離型剤を使えばよい」で大丈夫?

金型表面の磨きや仕上げの改善で、離型しやすくなることはあります。離型剤が役立つ場面もあります。

ただし、いずれも、抜き勾配や形状上の問題を何でも解決できる方法ではありません。

磨きで改善できる範囲には限界があり、離型剤も製品用途や後工程との相性を確認する必要があります。塗装や接着などがある製品では、特に事前確認が大切です。

対策を考える順番としては、まず形状と離型方向を確認し、表面仕上げ、突出方法、成形条件を組み合わせて検討します。

最初から「抜けなかったら離型剤で何とか」は、旅行の計画を立てずに「困ったらタクシーで」と出発するようなものです。助かる場面はありますが、毎回それでは負担が増えてしまいます。

製作前の打ち合わせに使える確認リスト

図面や3Dデータを確認するときは、次の項目を共有しておくと、検討漏れを減らせます。

確認項目具体的に決めておきたいこと
型開き方向・PL主型で抜く範囲と、スライドなどで処理する範囲
勾配不足の箇所外周、内壁、リブ、ボス、穴、溝の角度と抜く距離
表面仕上げ外観面、シボ面の位置、模様や仕上げの仕様
寸法の基準勾配を付けた後、どの断面で寸法を保証するか
肉厚・リブ幅勾配追加後の先端幅、根元幅、周囲との肉厚差
押し出し方法ピン跡を許容できる位置と、力を受けられる形状
勾配ゼロの指定機能上の理由と、ストレート形状が必要な範囲
変更の承認形状を変更できる範囲と、修正後データの確認方法

まとめ|小さな角度こそ、金型を作る前に確認したい

抜き勾配がない製品は、条件によって成形できることもあります。ただし、擦り傷、白化、変形、ピン跡、離型の不安定さにつながる可能性があるため、製作前の検討が欠かせません。

そして、抜き勾配は「付ければ終わり」でもありません。

どちらへ抜くのか。どの寸法を守るのか。肉厚はどう変わるのか。シボはあるのか。どこから押し出すのか。

これらを一緒に確認して、初めて製品として成立する設計になります。

抜き勾配は、金型屋の都合で付ける余計な傾きではなく、製品をきれいに、安定して作るための設計要素です。

画面上ではわずか1°。でも、現場ではその1°に助けられることがあります。

金型が完成してから「もう少し傾けられませんか」となる前に、図面の段階で一度確認しておきましょう。鋼材になってからお願いするより、データのうちに相談するほうが、話も加工もずっとスムーズです。

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