金型を鏡面に磨けば、製品は抜けやすくなる?磨きと離型の意外な関係

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「製品が金型から抜けにくいので、もっとピカピカに磨けばよくなりませんか?」

表面がザラザラしているより、ツルツルしているほうが滑りそう。そう考えるのは自然ですし、実際に磨きで離型が改善することもあります。

ただ、金型では「きれいに磨けば磨くほど、製品が抜けやすくなる」とは限りません。

鏡面に仕上げても抜けにくいことがありますし、条件によっては、磨き込んだことでかえって離れにくくなる場合もあります。

ピカピカになった金型を見て、こちらは満足。ところが製品のほうは、なかなか離れてくれない。見た目のよさと離型のよさが一致しないところが、金型の難しいところです。

目次

磨きが効くのは、表面の引っ掛かりが原因のとき

金型の製品に触れる面には、切削加工の工具目や放電加工の凹凸などが残ります。そうした面の状態が、製品を抜くときの抵抗になることがあります。

製品の側面に擦れたような跡が付く。毎回同じ場所に引きずり傷が出る。こうした場合は、対応する金型面を確認し、必要な磨きを行うことで改善が期待できます。

ここで大切なのは、ただ光らせるのではなく、抵抗になっている加工目や傷を取り除くことです。

表面に光沢が出ていても、深い傷が残っていれば、そこが引っ掛かりの原因になることはあります。弊社としても、光の反射だけを見て「これだけ光っているから大丈夫」とは判断できません。

鏡面なのに抜けにくいのは、なぜ?

ひとつは、製品と金型の間に空気が入りにくくなるためです。

例えば、底のある深い容器のような製品を、内側の形状を作るコアから抜く場面を考えてみてください。製品が動き始めたとき、底とコアの間にできる空間へ空気が十分に入らなければ、その部分の圧力が下がり、抜ける動きを妨げます。

いわゆる、吸盤に似た状態です。完全な真空になる必要はなく、周囲との圧力差が離型の抵抗になります。

鏡面で密着しやすく、抜き勾配が小さいなどの条件が重なると、こうした問題が起こる場合があります。樹脂メーカーの技術資料でも、低勾配・勾配なしの部分で負圧が生じる場合は、高度に磨いた面が離型を妨げることがあると説明されています。※1

もちろん、鏡面にすれば必ず吸い付くわけではありません。製品形状や樹脂、空気の入り方によって変わります。

「抜けにくいから、もう少し磨こう」と進める前に、表面が引っ掛かっているのか、空気が入らず離れにくいのかを分けて考える必要があります。

樹脂の「抱き付き」は、鏡面だけでは解決しない

もうひとつ忘れてはいけないのが、樹脂の収縮です。

樹脂は冷えると収縮します。箱形や筒形の製品では、この収縮によって内側のコアを締め付けるようになることがあります。現場でいう「抱き付き」です。

この場合、金型の表面がきれいでも、製品がコアをつかんでいる状態は残ります。

手袋をした手で棒をぎゅっと握っているようなもので、棒の表面を滑らかにする効果はあっても、握る力そのものがなくなるわけではありません。

そのため、磨きだけでなく、抜き勾配や冷却状態、成形条件なども確認します。冷却不足では突き出したときに変形しやすくなりますが、長く冷やせば必ず抜けやすくなるとも限りません。樹脂や形状によって、収縮と製品の剛性の両方を見ていく必要があります。

「磨きが足りない」という見立てだけでは、原因に届かないことがあるのです。

磨きは「細かさ」だけでなく「方向」も大切

金型の磨きでは、どのくらい細かく仕上げるかに加えて、どちら向きに仕上げるかも重要です。

製品が抜ける側面などは、基本的に抜ける方向に沿って最終的な磨き目を整えます。抜け方向を横切る深い磨き傷が残っていると、離型時の抵抗や擦れの原因になるためです。※1

磨きの途中では前工程の傷を確認するために方向を変えることもありますが、最終的には、その面を製品がどう通って抜けるかを意識します。

細かい番手まで磨いてあるかだけでなく、傷が残っていないか、仕上げの方向が適切か。

金型の磨きは、見た目以上に「製品の動き」を考える仕事です。

では、少し粗い面のほうがよいのでしょうか?

ここまで読むと、「鏡面で吸い付くなら、少しザラザラにしたほうがよいのでは?」と思うかもしれません。

実際、外観上問題のない面で、表面の仕上げを調整することが対策になる場合はあります。ただし、これは条件を見極めて行うものです。

粗くした凹凸が、今度は製品の引っ掛かりになることもあります。シボのある面では、その深さに応じた抜き勾配の検討が必要ですし、金型面を変えれば製品の光沢や質感も変わります。

とくに、透明品や光沢が求められる外観面では、離型だけを理由に仕上げを変えるわけにはいきません。

必要な鏡面は維持しながら、抜き勾配や突き出し方法、必要に応じてエアによる離型補助など、別の方向から対策を考えます。

「鏡面がよいか、粗い面がよいか」という二択ではなく、要求される外観と、安定して抜ける条件を両立させることが大切です。

磨きで、抜き勾配の不足をすべて補うことはできません

金型を作る側として、特にお伝えしたいのがこの点です。

抜き勾配には、製品が動き始めたときに金型面との間に隙間を作り、接触を減らす役割があります。勾配がほとんどない深い側面では、製品が長い距離を擦りながら抜けることになります。

表面を磨いて抵抗を減らすことはできても、勾配によって隙間が生まれる効果まで、磨きで置き換えられるわけではありません。

「勾配は付けられないので、磨きで何とか」というご要望に対しても、まずは形状や樹脂、許容される傷、突き出し方法を確認する必要があります。

磨きは頼りになる工程ですが、何でも引き受けられる万能選手ではないのです。

弊社が確認したいのは、どこで、どう抜けにくいのか

離型不良への対応では、「抜けにくい」という言葉を、もう少し具体的にしていくことが大切です。

例えば、次のような情報が判断の手掛かりになります。

  • 金型を開くときに固定側へ取られるのか、可動側から突き出すときに抵抗があるのか
  • 動き始めだけ重いのか、抜ける途中までずっと擦れているのか
  • 製品のどこに傷や白化、変形が出ているのか
  • 成形開始直後と、金型温度が安定したあとで違いがあるのか

製品サンプルの傷と金型面を照らし合わせることで、磨きを見直すべき場所が分かることもあります。一方で、突き出しの力が一部に集中しているなら、磨きだけでは十分な改善が得られない場合もあります。

症状だけで原因を断定はできませんが、こうした情報があると、確認すべき場所を絞りやすくなります。

なお、磨きは金属の表面を少しずつ除去する作業です。同じ場所を繰り返し磨けば、寸法や角の形状に影響することもあります。やみくもに磨き続けるのではなく、必要な場所に、必要な範囲で行うことが大切です。

金型の磨きで目指しているのは、ただ鏡のように光る面ではありません。求められた外観を作り、製品に無理をかけず、繰り返し安定して取り出せる面です。

ピカピカに仕上がると、作っている側としてもうれしいものです。ただ、その磨きが本当にうまくいったかどうかは、最後は製品の抜け方が教えてくれます。


※1 技術参考:Eastman「Processing and mold design guidelines」冊子24~25ページ。鏡面と負圧、抜け方向に沿った最終磨きに関する説明を参照。対象樹脂の資料であり、すべての樹脂・形状に同じ条件が当てはまるわけではありません。
https://www.eastman.com/content/dam/eastman/corporate/en/literature/s/sptrs5344.pdf

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