製品図面を確認していると、寸法の数字が「(50)」のように、かっこで囲まれていることがあります。
このかっこ、数字を目立たせるための飾りではありません。もちろん、設計者がちょっと遠慮して書いているわけでもありません。
これは一般に「参考寸法」と呼ばれる表記です。
私たちが金型製作のお打ち合わせで「この寸法は参考寸法にできますか?」とご相談することがありますが、それには理由があります。
製品にとって大切な寸法を確実に狙うためには、どこを管理し、どこをほかの寸法から決まる結果として扱うのか、整理しておく必要があるからです。
今回は、この小さな「( )」が持つ意味と、金型製作で寸法の優先順位が重要になる理由をお話しします。
参考寸法とは、形状の理解を助けるための寸法
参考寸法は、形状や大きさを理解しやすくするために、補助的に記載する寸法です。ほかの寸法から計算できる長さなどを、図面を見る人の便宜のために示す場合に使います。
例えば、ある部品の長さが20mmと30mmの二つの区間で決まるなら、全長は50mmになります。この全長を独立した管理対象にする必要がなければ、「(50)」と記載する、という考え方です。かっこ寸法によって重複した寸法指示を整理する方法は、カブクの設計実務解説でも紹介されています。参考:Kabuku Connect「寸法の入れ方 かっこ寸法の使い方」
一般的には、参考寸法そのものを独立した製作・検査の合否基準にはしません。ただし、図面の注記や取引先との取り決めがある場合は、その内容も確認します。
ここで大切なのは、「参考寸法だから、どんな大きさでもよい」という意味ではないことです。
ほかの管理寸法や形状の指示に従って作れば、その結果として決まる寸法があります。その関係を分かりやすく示しているわけです。
「参考にしてください」を「自由に作ってください」と受け取ると、完成品を前に全員が静かになります。かっこの読み違いにしては、なかなか大きな事件です。
部分寸法は合格なのに、全長が不合格?
寸法の関係を、簡単な例で考えてみます。
一直線上にA・B・Cの三つの位置があり、BがAとCの間にあるとします。図面には、次の寸法が入っています。
| 寸法箇所 | 指示寸法 |
|---|---|
| AからB | 20±0.1mm |
| BからC | 30±0.1mm |
| AからCの全長 | 50±0.1mm |
公称値だけを見れば、20+30=50。きれいに成立しています。
ところが、実際にAからBが20.08mm、BからCが30.08mmだったらどうでしょう。
二つの部分寸法は、それぞれ公差内です。しかし全長は50.16mmとなり、50±0.1mmの上限を超えてしまいます。
**部分寸法がそれぞれ合格でも、全長が合格するとは限らない。**これが、公差の積み重なりで起きることです。
この図面の製品が「絶対に作れない」という意味ではありません。三つすべての公差を満たすように作ることは可能です。ただし、部分寸法それぞれに認められた範囲を、独立していっぱいまで使えるわけではなくなります。
そこで、製品の機能から寸法の持たせ方を考えます。
全長を独立して管理する必要がなければ、全長を「(50)」にすることが考えられます。反対に、全長とAからBの寸法が重要なら、BからCを参考寸法にできるか検討します。
ただし、その場合はBからCのばらつきが機能上許されるか、確認が必要です。三つとも重要なら、参考寸法に逃がさず、公差の配分や加工・成形方法を検討します。
計算が合うことと、量産品として無理なく管理できることは、少し違う話なのです。
金型の寸法と、成形品の寸法は同じではない
射出成形では、金型を製品図面と同じ寸法で加工すれば、そのまま同じ寸法の製品が出てくるわけではありません。
樹脂は冷えて固まるときに収縮するため、金型では成形収縮を見込んで寸法を設定します。さらに、製品形状や肉厚、樹脂の流れ方、冷却の状態などによって、各部の寸法の出方が変わります。
そのため、試作で成形品を測定し、必要な箇所を調整していくことになります。
このとき困るのが、寸法同士の関係や機能上の重要度が分からないまま、調整を進めることです。
例えば、穴の位置を外形端面に近づければ、反対側の端面から穴までの距離も変わります。ある面を修正すると、その面に関係する複数の寸法へ影響が及ぶこともあります。
一つの寸法を直して、別の寸法を確認して、また戻る。これでは、金型修正が「終わりの見えない間違い探し」になってしまいます。
だからこそ、製作前に「どの基準から、どの寸法を、どの範囲で管理するか」を共有しておくことが重要です。
寸法の優先順位は、製品の働きから決める
優先順位を決めるといっても、「重要度が低い寸法は、公差から外れてもよい」という話ではありません。
**図面に要求として残した寸法は、すべて満たすことが前提です。**そのうえで、必要な要求と重複した参考情報を整理し、製作や評価の方針を明確にします。
例えば、次のような箇所は機能に直結しやすいため、慎重な検討が必要です。
| 箇所の例 | 確認したいこと |
|---|---|
| 相手部品とはまる部分 | きつすぎないか、緩すぎないか |
| 取り付け穴や位置決め部 | 組み付くか、必要な位置精度が出るか |
| シール部やOリング溝 | 密封に必要な寸法・形状が確保できるか |
| 摺動する部分 | 引っかかりや過大ながたつきがないか |
| 外形や端面 | 周囲との干渉、意匠上の隙間に影響しないか |
一方、ほかの寸法から決まり、独立して管理する必要がない長さなどは、参考寸法の候補になります。
ただし、「外形だから重要ではない」「見えない部分だから参考でよい」とは限りません。外形が少し大きいだけでケースに入らなくなることもあれば、見えない部分が組み付け位置を決めていることもあります。
図面上で目立つ寸法と、製品にとって重要な寸法は、必ずしも一致しません。大きな数字が主役とは限らず、小さな溝が全責任を背負っていることもあります。
「この寸法を参考にできますか?」と相談する理由
私たち金型メーカーから参考寸法への変更をご相談するのは、寸法関係を整理することで、必要な品質をより合理的に確保できる場合があるからです。
例えば、相手部品と組み合う位置を優先して管理すると、機能に関係しない端面までの距離は結果として決まる、という場合です。
そこで端面までの距離にも独立した厳しい公差を要求すると、追加の調整が必要になる可能性があります。その調整が製品の機能改善につながるのか、確認したいわけです。
もちろん、作りにくい寸法を片っ端からかっこで囲めばよいわけではありません。
そんなことをすれば図面はかっこだらけになりますが、製品の出来まで格好よくなる保証はありません。
参考寸法に変更する場合は、設計者・お客様に機能上の問題がないことを確認いただき、図面と検査基準を整合させます。金型メーカーが独断で決めたり、口頭だけで済ませたりするのは避けたいところです。
寸法を決めるときは「どこを測るか」もセットで
寸法値と公差が明確でも、測定位置が曖昧だと評価がそろいません。
例えば、抜き勾配のある側面は、高さによって幅が変わります。「幅50mm」とだけ書かれていても、上端を測るのか、下端を測るのか、特定の高さで測るのかによって結果が違います。
反りのある成形品も、自由な状態で測るのか、治具で所定の位置に保持して測るのかで値が変わる場合があります。成形後の経過時間や吸湿の影響を考慮する必要がある材料もあります。
つまり、重要寸法については、数値だけでなく、基準・測定位置・測定状態もそろえることが大切です。
製作側は合格、検査側は不合格。両方とも真面目に測っているのに話が合わない、という事態は避けたいものです。測定器同士をにらみ合わせても、残念ながら相談してくれません。
参考寸法についても、必要に応じて傾向確認のために測定することはあります。「測らない寸法」と決めつけるより、何のために測り、その値をどう扱うかを共有しておくと安心です。
小さなかっこを、手戻りを減らすきっかけに
参考寸法の「( )」は、図面を読む人に、寸法の役割を伝えるための表記です。
金型製作に入る前に、次の点を確認しておくと、設計・製作・検査の認識をそろえやすくなります。
- 製品の機能や組み付けに直結する寸法はどれか。
- 寸法の基準と、公差の積み重なりに無理がないか。
- ほかの寸法から決まり、参考寸法にできる箇所があるか。
- 重要寸法の測定位置や測定状態が明確になっているか。
- 図面と検査基準が一致しているか。
必要な精度を、必要な場所へ。その考え方を図面に落とし込むことが、余分な修正を減らし、費用や納期の見通しを立てやすくすることにつながります。
名岐金型では、金型製作の立場から、寸法の成立性や修正への影響も踏まえてお打ち合わせします。
「ここは必ず合わせたい」「この寸法は、実は目安でよい」。そんな設計意図を、製作前に共有いただけると助かります。
図面のかっこは小さくても、後から削る鋼材や、やり直す時間は小さく済むとは限りません。金型を削り始める前に、まずは寸法の関係を一緒に整理しておきたいですね。

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